東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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ちょいと良いハナシと、ちょいと悲しいハナシ。

今年もまた恒例の「新橋大古本まつり」が新橋駅SL広場前で開催されている。近くで午前中に打ち合わせが有ったので、ちょいと覗いてみた。最近はインターネットで検索すれば全国の古書店の在庫から欲しい本を探す事が出来るのだが、矢張り古本は実際に古本屋を廻って、探していた本や掘り出しもの、メッケモンを見つけるのが愉しい。
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今日のように澄んだ青空の下での古本巡りはとても気分爽快だ。年に数回催されるのだが、寒過ぎず暑過ぎず、今の季節が一番だナ。

そして、今回は三冊を購入した。
先ずは、古今亭志ん生の『びんぼう自慢』。志ん生師匠が70代の後期に「週刊サンデー毎日」に連載した師匠のおしゃべりを落語研究家の小島貞二氏が聞き書き風にまとめたものだ。それにしても凄いタイトルだが、読めば読む程、目一杯びんぼう生活を楽しんで来たのだナ、と云う事が伝わってきた。本人自ら「三道楽免許皆伝」と豪語し、十二、三歳頃からいっぱしに呑む、打つ、買うを楽しんでたと云う。初代柳家権太楼師匠との貧乏競争なんてのも可笑しかった。
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あとがきで小島氏が、「落語を地で行くような、型破りな人生行路が、つまり志ん生芸術をつくり出したといって過言ではない。無数にあるレパートリーの中で、とくに“長屋もの”のおかしさは、こうした生活体験が、登場人物の中ににじみ出ているからだ。」と記していたが、全くその通りだと思った。近頃の落語ブームで古今亭志ん生も大人気だが、この本を読んでから、師匠の噺を聴けば愉しさ倍増だろうなぁ。
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挿絵を清水崑が描いているのも良い。

     雨だれに首を縮める裏長屋

最後は、こんな師匠の句で締め括ってあった。イイネ。

お次ぎは、谷崎潤一郎の『台所太平記』だ。こちらも「サンデー毎日」に連載していた小説の単行本だったが、奇遇だナ。作家の家で働く幾人ものお手伝いさんたちの行状記だ。谷崎自身の邸宅が舞台となり、グラマーな女中が出て来たり、同性愛者が登場したり、と過去の小説のモデルだったのかナ、などと想像も膨らみ、それぞれの女中たちのストーリーを各章毎に綴っている。可成り晩年に書いた小説だが、さらりと読めて面白かったナ。前にNHK-BSで放映された森繁久弥の映画で観ていたので、あらためて本が手に入って良かった。
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こちらの本の装釘と挿絵は、横山泰三画伯だ。面白い本は、大抵挿絵が良いのだヨ。

最後は、新劇の名役者中村伸郎のエッセイ『永くもがなの酒びたり』。
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タイトルが良いネ。1991年7月、82歳でこの世を去ったが、この本はその年の8月に出版され遺稿集となった。
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小津安二郎ファンならば誰もが知っている俳優だが、この人のエッセイはとても面白いのだ。また、その本から獅子文六や久保田万太郎へと興味を抱き、果ては俳句にも興味を持ったのだ。
  
     奇遇とて昼酒となり冷や奴

酒をこよなく愛した役者ならではの粋な句だネ。

いやぁ、今回は三冊とも総て良かった。
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これ全部で800円なのだから、古本巡りは愉しいなぁ。 

それにしても、中村伸郎さんの文章は素晴らしかった。小津の『東京暮色』での冴えない雀荘の主人役が僕は好きなのだが、本業の役者も素晴らしいが、その上こんなに上手い文章が書けるとは非凡な才の持ち主は素敵だネ。

さて、先日恵比寿の大衆酒場『カドヤ』にて、フリーペーパー『108』の第2号を手に入れた。以前、フリーペーパーの『88』で編集を手がけていた友人、鈴木完君が独立して発行しており、表紙も遠藤ソウメイ画伯が相変わらず素晴らしい絵を描いている。
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この冊子の中で、毎号愉しみにしているのが川内一作師の「極楽食堂」でアル。名酒場の店主ながら、実に素晴らしい文章を書くのだから、前出の中村伸郎同様に非凡なのだ。

今回のハナシは、寺山修司に始まり、高木町に在った伝説の酒場へと移り、先日他界した生粋の不良親爺Hさんのカッコ良すぎる最後へと綴られていた。たった一言の強烈な言葉でグイグイと引き込まれてしまう。今回も「今でもジャンクな風にあたりたくなると、ひとりで新宿を徘徊する。」で一発ノックアウトだった。そして最後は「すべての優しき真夜中の放浪者に愛を込めて。」で締めくくる。もう、これまたカッコ良すぎるぜ。読み終えて、何故だか僕の脳裏に浮かんだのはショーケンの姿だったのだが、一作さんしかり一世代上の先達たちにはいつまでもかなわないなぁ。
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その川内一作師が、先月高木町の伝説の酒場『クーリーズ・クリーク』を復活させた。三十年と云う年月を経て、白金高輪の川沿いにオープンした。僕はタイミング悪く出張と重なってしまい、オープニングに行けなかった。酒場の友、矢野カンメイ君やモリンコさんたちはお祝いに駆けつけたそうだ。僕も早々に行きたいナぁ。おめでとうございます。
        ◇       ◇       ◇
一昨日、神保町の酒場『兵六』にて一人で手酌酒をやっていると、見覚えのある客が一人入って来た。暫くは、お互い語らずに呑んで居たのだが、そのうち、向こうから声を掛けてくれた。すると、可成り昔に一緒に酒を呑んだ事が有ったソニーミュージックの方で、以前、酒場の友の坂西伊作さんと一緒に呑んだりした人だった。

伊作さんとは、最近酒場でも会わないなぁと思っていた所だったので、聞いてみたら、なんと数日前に病気で亡くなられたとの事だった。
その日に伊作さんの訃報を知ったので、一人此処に「お弔い酒」を呑みに来たとの事だった。伊作さんの訃報も僕には可成りのショックだったのだが、そんな晩にこうやってO氏と巡り合わせるのだから、天国の伊作さんが僕に引き合わせてくれたのだろう。
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それにしても、伊作さんと僕とは2つ位しか歳が違わないのだ。最近五十代で亡くなる方が廻りで多すぎる。悲しすぎるなぁ。人の分まで、こちとら長生きせんとイカンな。

随分と型破りな方だったが、いろんな酒場やライブで良く会った。ソニーミュージックでも確か昨年役員になったばかりだったのに、早すぎる死は残念でならない。

その晩は共に泪のかわりに酒を呑み干した。家に戻っても、走馬灯のように数々の場面が頭をよぎって、酒の力を借りても眠れやしない。灰色と紺色が混ざったような空の色が少しづつ明けて来た。なんだか久しぶりに目にしたような朝焼けだった。悲しすぎるぜ、まったくよ。

心からご冥福をお祈りします。合掌。
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by cafegent | 2009-05-27 20:11 | ひとりごと