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by cafegent
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日々雑文雑多日記/雛まつりに、ふと考えた夫婦のこと。

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「類天疱瘡」と云う言葉を聞いて、「竜頭蛇尾」とか「天衣無縫」と同様に四文字熟語の一つかと思っていたら、水ぼうそうの一種の病気の名前だった。

俳人金子兜汰さんが現在患っている病だと聞いた。92歳を過ぎた今も元気に俳句を詠み続けているそうだ。
金子さんが2001年に出版した句集「句集 東国抄」は、いつも繰り返し詠んでいる。
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      子規は雛あられかりかりと戴く    金子兜汰

この頃、金子さんの妻皆子さんが右腎臓に悪性腫瘍が見つかり、数度の手術をしながら病と闘っていた。頑張っている妻への気持ちが沢山詰まった句集でアル。

句集の中に幾つかの狼の句が詠まれている。

      おおかみに蛍が一つ付いていた
      狼に転がり墜ちた岩の音
      狼生く無時間を生きて咆吼(ほうこう)

咆吼とは、猛獣などが吠えて叫ぶ様を云う。秩父には狼にかかわる伝承が多く、あちこちの神社に狼の石像がひかえているそうだ。
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ニホンオオカミはとうの昔に絶滅しているが、金子さんの心の中にはまだ生きていると云う。「少なくともわたしのなかでは、いのちの存在の原姿として生きている。」とあとがきに綴っていた。

「句集に加えた狼の句には、その思いを込めた。妻も頑張っている。わたしも頑張らざるをえまい」と結んでいる。

ひな祭りの日、病で床に伏せる子規が雛あられをかりかりとかじる姿が眼に浮かぶ。きっと、妹の律(りつ)の桃の節句を祝う雛あられなのだろうか。

今日は「桃の節句」、雛まつりでアル。
我が家では大きな段飾りを飾るゆとりも無いので、掌に乗る様な小さなひな人形を節分が過ぎた頃から飾っている。
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日々、己の快楽ばかり求めて自由奔放に生きて来た僕だが、小さく寄り添う雛人形を今一度眺め、偕老同穴に終わりたいものだ。と、金子兜汰さんの句集を読み返し、考えてみるのだナ。

    書棚にて そと寄り添ひし 夫婦雛(めおとびな) 八十八
       ◇       ◇       ◇
さて、昨日3月2日は、五年前に急逝したドラマの演出家であり小説家の久世光彦さんの命日だ。

残された朋子夫人が綴ったエッセイはとても優しくて切ない。平凡社の雑誌「月刊百科」に連載されていた時から坪内祐三さんが「久世光彦と向田邦子のDNAを合わせもつ素晴らしい文章だ」と絶賛していた。
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今回「テコちゃんの時間」と云うタイトルの単行本になったので、まとめて読む事が出来た。テコちゃんとは、久世さんの母が好んだ幼少期からの呼び名だ。そして、朋子夫人も愛情たっぷりにテコちゃんと呼んでいた。

22編のエッセイは、そのどれもが素晴らしく久世さんへの想いに満ち溢れていた。出逢った頃のこと、二人の子どもが出来た頃のこと、世間から騒がれて隠れていた頃のこと、久世さんの何とも無邪気で可愛らしい一面のこと等々、とても温かく優しい言葉で書き綴っていた。そして、いつも最後に切なくて泣きそうになるのだナ。

また、改めて判った事だが、僕が抱いていた久世光彦像と余りにかけ離れていたので驚いた。丁度ドラマ『寺内貫太郎一家』や『時間ですよ』がヒットし、続く『ムー一族』も夢中になって見ていたが、チョイ役で出ていた女の子と不倫騒ぎを起こしてマスコミを賑わせていた。丁度、高校生だった僕は、不倫妊娠させたコが僕とそんなに歳が変わらない若い娘だった事に驚いて、久世光彦と云う人は所謂典型的な「業界の怪しい人」と云うイメージを勝手に作っていた。

その時の騒ぎの当事者が、朋子夫人なのだナ。当時の辛く我慢の日々の事も彼女の文章では、久世さんと共に明日への希望に向かって繋いで来たから家族として確立出来たのだナ、と頷きながら読み進んでしまう。

30数年前に抱いた勝手な久世光彦像は、その後の小説やエッセイを読むうちにガラリと変わったが、「テコちゃんの時間」を読み、少年の様な久世さんが妙に可愛らしく思えて来た。

正月に大勢の客を招く為、おせち料理作りに奔走したり、大掃除や障子の張り替えをする父子の姿に思わず頬が緩んだりしながらも、今はもう居ない久世さんを憶う朋子夫人や一人息子の姿が眼に浮かぶのだナ。
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22の珠玉のエッセイをゆっくりとページを捲りながら、是非とも読んで貰いたい。今回が初めてとは信じられない程、文章が素晴らしい。

これほど素敵な人に愛されながら旅立った久世光彦さんは、きっと幸せな人生を過ごしたのだナ。

世間から離れて過ごさなくちゃならない時期もあったが、家族三人での温かい暮らしぶりは羨ましい限りだった。さて、僕は...とまた考えてしまうのだナ。
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by cafegent | 2011-03-03 12:30 | ひとりごと | Trackback | Comments(0)