角川春樹事務所が「280円文庫」を創刊した。
与謝野晶子の『みだれ髪』、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、石川啄木の『悲しき玩具』、太宰治の『桜桃』、坂口安吾『堕落論』、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』など最初に刊行したのは10作品だそうだ。
若者の活字離れが進む中で、この低価格は実に嬉しい。また、小学生高学年でも読めるように、フリガナを多く付けたのも素晴らしいネ。
巻末には各作家の大ファンの作家らがエッセーを書いている。
小説家の小手鞠るいさんは『みだれ髪』に、「もしもあなたがきょう、この小さな本と出会って、この本を連れて家に帰ったとしたら、与謝野晶子は生涯、あなたの親友となり、恋人となってくれる」と寄せた。
この「280円文庫」を通して、日本文学の名作に触れ、読書好きの子どもが増えることは大いに嬉しい。
銀河鉄道の夜 (280円文庫)
さて、青森県津軽出身の太宰治や岩手県花巻出身の宮沢賢治、盛岡出身の石川啄木の名作が、安価で刊行された訳だが、それにしても東北出身に素晴らしい文豪が多いのだナ。
そして、僕の東北の旅もまだ続いている。
五能線からJR奥羽線「男鹿なまはげライン」に乗り換え、ガタンゴトンと旅は続く。
上二田、天皇、船越と続き、七つ目が羽立駅だ。
駅舎では、ツバメが子育中で小さな雛が5羽ほどピーピー鳴いていた。
それにしても此処は素朴な駅だナ。
此処からは合い乗りタクシーにて「なまはげライン」を抜けて男鹿温泉郷へと向かうのだ。
ホラ、なまはげもお出迎え。
そして、この日お世話になる温泉旅館『男鹿萬盛閣』に到着。
玄関ではツツジと共にクロアゲハが迎えてくれた。
此処は電話した時の応対がとても親切で、優しさが伝わってきたので、予約することにしたのだナ。たぶん女将さんだろうと思うが、実際にお逢いしても実に優しい笑顔が印象的だった。
そして若女将の方も、とっても気遣いが優れており宿を此処にして大正解だった。荷物を置いて、散歩に出掛けた。
鶏舎では、鶏が放し飼いだ。長閑だネ。
温泉郷を抜ける細い道は「鬼の隠れ道」と云うそうだ。明治期から大正にかけて、この地は石灰岩の採石現場だったのだネ。道の両脇の崖は、往時の「トロッコ道」の名残で、煎餅を幾く枚も重ねた様な地層だ。
男鹿温泉の源泉はこの石灰が数万年の時を経て沈殿して出来た岩石であり、これが「湯の華」(石灰華トラバーチン)と呼ばれている。
迷い道を抜けると海岸線が見えて来た。
旅館から15分程歩いた辺りで、日本海に出る。
空ではトンビとカラスが仲良く舞っていた。
日曜日のせいか、道行く人にまったく出会わない。
海は凪もなく、鳥の声だけが潮風に乗って響いてる。
旅に出ると、何も予定を立てずにぼんやりと時を過ごすのも素敵だネ。
帰りに歩いた山道は、トトロかコロポックルでも出て来そうな鬱蒼とした曲がり道だった。
鳥の声に耳を傾け、どんな野鳥が来ているのかを探すのも愉しい。
電線には1羽のハクセキレイが止まっていた。
午後4時、まだ日暮れまで時間があるので、温泉で汗を流す事にした。
源泉掛け流しの湯は、源泉温度56.5度。温泉に湯沸かしを使用せず、湯量の調節で温度を調整しているとのことだ。男鹿温泉の泉質は、ナトリウム塩化物泉だそうで、保温効果が高いのだそうだ。冷え性や関節痛に効果がありそうだナ。
外に停まっているクルマのナンバーを見ると、意外にも県内や青森、岩手の方が多かった。一台だけ横浜ナンバーを見つけたが、他は皆さん近くから訪れているのだネ。
こんなスゴイ三輪バイクを乗り付けた壮年カップルも居たが、こちらも近県からだったナ。
さて、日暮れ前になり出掛ける事にした。
此処男鹿半島の突端に在る入道(にゅうどう)崎は、夕日が素晴らしいと聞いていた。昼間は太陽が出ていたが、夕日が見れるか定かじゃなかったのだが、せっかくなので行ってみた。
午後6時半、入道崎に到着。
入道崎灯台の廻りでは、ヒバリの群れがけたたましく啼いている。
水平線を望んでも、夕日のゆの字も出ていない。
海風が強く顔をなぶり、東北の海に立っているのだと強く意識出来た。
枡花色の海と藤鼠色の空の間に微かに水平線が判るのだナ。
結局、沈む夕日は拝めなかった。
遥か遠くに見えるのは船だろうか、太陽だろうか。
写真だと判らないが、ホオジロが停まってた。
地面では、ハクセキレイが数羽餌を探して歩いてた。まぁ、野鳥を見れただけでも良かったかナ。
晴れていれば、こんな絶景に出会えたのだナ。
宿に戻り、おまちかねの夕食だ。
前から一度食べてみたかった、男鹿名物「石焼料理」でアル。
さすが、日本海に面した海の温泉郷だけに、肉が一切ない魚介オンリーの料理だ。
そして、鯛づくしなのだネ。
先ずは、ビールで喉の乾きを潤し、ホッとひといき。
刺身も塩焼きの鯛も美味い。
カミサンにお酌をしてもらい、日頃の呑んだくれ三昧の日々を侘びる。
酒は秋田の地酒、太平山生酛(きもと)純米吟醸「十二」を戴いた。
秋田限定販売との事で、もう一本買って帰れば良かったナァ。「秋田酵母No.12」を用いた純米吟醸は、爽やかな味わいで、香りは可成りフルーティーでアル。
さぁ、炭で真っ赤に焼かれた石が来た。
味噌をといた木桶の中に魚介を入れて行く。
そこへ、真っ赤に光る焼き石を数個入れるのだネ。
すると一気に煮立ち、ボコボコと沸き上がる。
これで完成だ。瞬時に魚に熱が入る為、臭みが一切出ないそうだ。
中居さん、お疲れ様でした。
お椀によそって貰い、ハイ出来上がり。
この汁で作った汁掛け飯も〆に最高だったナ。
夕食後は再び温泉に浸かり、二日間の旅の記録を思い出した。
後はのんびりと酒を呑み、秋田での一日を終えた。