先祖の霊を送る夏の伝統「五山送り火」が夕べ、京都市街の山々で執り行なわれた。
当初の計画では、大震災に見舞われた岩手県陸前高田市で津波によって倒された松の木を薪にして燃やす筈だったのだが、地元京都住民から反対が出て一時中止に。それに対して、多大なる反響が起こり、市は再度陸前高田の被災松を500本取り寄せたのだが、放射性セシウムが検出され、地元京都住民から反対が出て、使用を断念することになった。
二転三転し、結局陸前高田の薪に被災者らの書いたメッセージを「五山送り火保存会」の方々が護摩木千本に総て書き写して焚いたらしい。
結局、京都市街を取り囲む五つの山々では、大文字、妙法、舟、鳥居、左大文字と次々に火が灯された。
夕べは、東日本大震災での犠牲者の鎮魂と早期の復興を願い、多くの人々が送り火の炎に向かって手を合わせて祈ったことだろう。
しかし、今年の送り火では、先祖の霊たちもさぞかしがっかりした思いで盂蘭盆会に帰って来た事だろう。
本来なら現世に名残を惜しみ、茄子の牛に乗ってゆっくりと黄泉の国へと帰って行くのだが、今年に限っては現代人のあさはかさを嘆き、とっとと胡瓜の馬で走って帰りたかったことだろうナ。
◇ ◇ ◇
そんな「大文字五山送り火」の騒動が世間を賑わせている最中、京都へと旅に出た。
七月は「祇園祭」で賑わう為、宿も取れないし、秋も紅葉で大変な人出となる。お盆前は大変な猛暑の時季だが、案外京の町は、空いているのだネ。
まずは、品川から新幹線に乗り込み、呑み鉄開始でアル。
午前中は快適な車中で過ごし、正午に京都駅に到着。
五山送り火で「妙」の文字を灯す西山近くまで地下鉄で移動し、其処からタクシーで貴船へ。
鴨川の源流である貴船川沿いにクルマを走らせること数十分、京の奥座敷と云われる貴船の川床を目指す。
貴船は、30度を超える市内の暑さがまるで嘘の様に清々しい清流からの風が漂うのだナ。此処、貴船の夏の風物詩と云えば「川床」だ。勢い良く流れる貴船川の真上に座敷を設け、涼風の中で風雅を感じ、美味い料理と酒を愉しむのだナ。
今回の京都では、兎に角美味いものを食べようと、料理旅館『栃喜久』(とちぎく)へとお邪魔した。
どうですか、この見事な清流の流れ!
床下からもヒンヤリとした冷気が心地良い。
京都の地酒「桃の滴」の純米吟醸を戴いた。
爽やかな旨味とキレのある後味は、夏に持ってこいの酒だネ。
先ずは、先付けから。
「もろこし豆腐生うにのせ」、吞んべいには嬉しいアテだナ。
続いて、「松茸と鱧の土瓶蒸し」。
旬の鱧に早穫れの松茸の香りも良し。
お造りは「琵琶湖の鱒、蛸と鯛」。
鱒が脂が乗って、旨かった。
そして、目にも涼しげな素麺でアル。
オクラ、椎茸と車海老を冷たいお出汁でネ。
さぁ、『栃喜久』自慢の鮎の塩焼きの登場だ。
京都は、淀川水系の桂川、鴨川、宇治川、そして美山と鮎漁が盛んだ。
どうですか、今にも川を泳ぎだしそうな姿でしょう。
お次ぎの盆も美しいネ。
上からイチジク、キャビアとクコの実乗せ、ゴリの佃煮、鱧子とコケモモ、生ちまき寿司。
酒は、「都鶴」の山田錦純米極辛へ。
こちらも辛口の純米で、実に美味い。
キレイなお姉さんに注いでもらうと、なお一層旨い。
美しい京焼きの器に盛られた「冷やし鉢」は、帆立貝、舞茸、フルーツトマトとブロッコリーの黄身酢掛けだ。
さっぱりとして胃が引き締まる様だった。
最後は黒毛和牛のみすじをレア焼きで。
付け合わせは赤ピーマン、南瓜、それに京水菜だネ。海の幸ばかりだと思っていたので、嬉しい限り。ペロリと平らげてしまったヨ。
〆は、赤出しの味噌汁と豚じゃこでご飯を戴いた。
小鉢に入った豚じゃこが、ご飯にベストマッチだったなぁ。
甘味は、白ワインゼリーと最後まで涼しさを満喫出来る品々であった。
いやぁ、最後まで実に素晴らしいひとときを味わう事が出来た。
貴船川の瀬音に耳を傾けながら、吞む酒の旨い事。
水面より数十センチの高さに設えられた川床は、手を伸ばせば、冷たい清流に触れることが出来る。
天然のクーラーでたっぷりと涼を取った後は、貴船口駅へ。
鞍馬山を臨む駅からのんびりと叡山電車に乗り、出町柳駅へと戻ったのでアル。
では、続きはまた次回。