東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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秋の夜長のヒマ潰し/新版-東京奇譚 その2

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向島には、今も18軒の料亭が在る。戦前は芸妓屋が408軒、待ち合い料理屋215軒、そして芸妓は1,300余名も居り全国一を占めたそうだ。
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全盛期から数は可成り減ったものの、今でも新たに修行を積んだ芸妓さんが増えて来ており、この地域にも120名程が伝統芸を守っていると聞いた。
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明治40年から続く「水の登」は料理も素晴らしく、その佇まいも江戸の粋を感じる事が出来る。
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他にも「波むら」「美家古」など素敵な料亭が多く在る。

この日は、相手の希望で「櫻茶ヤ」の座敷を用意した。芸者が三人に幇間を頼んだ。幇間とは、所謂(いわゆる)「たいこ持ち」の事である。

江戸の頃で有名な幇間と云えば、英一蝶(はなぶさいっちょう)が有名だ。吉原遊郭の客として遊んでいた一蝶は狩野派の画家でありながら、毎日吉原に入り浸っている内に芸を覚え、唄や踊りで座を盛り上げる幇間として大変な人気者だった。
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火事が多い江戸で材木商として大成功を納めていた紀伊国屋文左衛門や奈良屋茂左衛門などは郭での遊びも豪快だ。  

彼らが、一蝶の幇間芸を贔屓にして相当金を使ったらしい。だが、分を越えてやり過ぎた。時の将軍綱吉の縁者も一蝶を座敷に呼んでいたが、それが将軍様の耳に入ったのだ。大名家に散財させるとはけしからん、と遂に三宅島に島流しの身となった。

「大名の毒虫」とあだ名がついた一蝶は、それから十年もの間離島で独り黙々と絵を描き続けた。だが、英一蝶は、転んでも只では起きぬ。吉原遊郭を知り尽くしていた彼ならではの見事な絵「吉原風俗図巻」を残している。しかし、良くもまぁ離島に居ながら、此処まで詳細に吉原の風俗を描けたものだ。

そんな江戸の粋人、英一蝶の幇間芸を今に受け継ぐ悠玄亭玉八師匠の芸を大いに堪能することが出来た。

玉八師は、94年に亡くなった悠玄亭玉介の愛弟子だが、襖を使ったお馴染みの芸など、招いた客人も大喜びだった。

小鈴や菊乃姐さんたちの華やかな向島花柳界の唄と踊りも見事だった。

 〈あだしあだ波よせてはかえる浪人 朝妻舟の浅ましさ...〉
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英一蝶が作った名小唄「朝妻舟」を御願いしたが、これには全員が踊りに釘付けになっていた。

料理も酒も申し分無し。客人は松茸尽くしの会席料理に思わず喉をゴクリと鳴らしていた。宴が進むにつれて、お銚子の空く数が増えて来た。相当酒が好きと見えた。よし、これで可成り気心知れたかもしれんな。

玄関へ出ると女将さんが皆に土産包みを渡してくれた。この辺りでは、毎度お馴染み「長命寺桜もち」である。此処から歩いてすぐの処に在る店は、江戸から続く老舗だ。

隅田川土手の桜の葉を集め、塩漬けにし餡を薄皮で巻いた餅を包む。他の桜餅は桜の葉を一枚で包むが、長命寺のは三枚も使ってあるのだ。
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僕は一枚外して食べるのが好きである。甘い物にも目がないと云う客人は、大喜びしていたので僕のも差し上げた。実は噂を聞いており、最後の土産が楽しみだったので此処を指定したらしかった。やれやれ、それなら何時でも持って行ったのに。

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客人をハイヤーに乗せ、クルマが通りを曲がるまで深々と頭を下げた。脇の水溜まりに大きな月が揺れていた。緊張の糸が解けたのか、急に大きなあくびが出た。伸びをしながら夜空に浮かぶ弓張りの月を仰いだ。

「櫻茶ヤ」を出たは良いが、まだ時間が早かったので山崎と二人、旧玉ノ井に在る居酒屋「十一屋」の暖簾を潜った。白味噌仕立ての煮込みをアテに焼酎ハイボールを煽る。あぁ、漸く肩の荷が降りたようだ。
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料亭での芸者遊びなどと云うもんは、連れて行かれる方だけが浮世を離れることが出来るだけであって、こっちは只々客人の機嫌を伺いながら次の仕事への糸口を探る訳だからなぁ。

しめ鯖が良い塩梅に〆てあり箸が進む。そろそろ、牡蛎の季節なので、かき酢も待ち遠しい。
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ハイボールを二杯で止め、キンシ正宗のぬる燗を戴いた。さっきまで食べていた料理は腹の何処に消えたのだろう。急に食欲が湧いて来た。燗酒には鰯の梅煮とエイひれだ。大徳利がすぐに空くなぁ。

山ちゃんは、今日の相手について分析を始め出した。頭脳明晰な彼の分析はとても的確で正しいのだが、こう酒が効いてくると同じ話を繰り返すのだよな。段々と話がくどくなって来たので、この辺りでお勘定してもらう事にした。

昼間は蒸したが、夜はさすがにヒンヤリとして来たナ。隣りの銭湯脇の草むらからリィリィと聴こえてきた。秋の虫が集(すだ)き、奏でているのだろう。
あの野郎、散々喋った挙げ句、いつの間にか独りでタクシー拾って帰っちまった。まぁ、良いか。少し秋の風を顔に受けよう。

              つづく...
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by cafegent | 2011-11-08 14:45 | ひとりごと | Trackback | Comments(0)