日々是日記/梅雨入りの野毛、三杯屋からハシゴ酒。
2012年 06月 13日
四季を72に分けて表した七十二候では、11から15日までがこの時候だ。
腐った草の下から孵化した蛍が飛び始める時季が来た訳だネ。
静かさに 蛍飛ぶなり 淵の上 子規
東京も蛍が夕闇に光る季節となった。板橋にある「板橋区ホタル生態環境館」では、毎年6月、7月に夜間特別公開が催されゲンジボタルやヘイケボタルの光る姿を眺めることが出来る。
自然に宿る生命が放つ神秘的な光は、街の灯りでは表せない幻想的な世界を作り出してくれる。
ゲンジボタルの光(ゆらぎ)は、人間の脳のα波を刺激して、活き活きとさせる効果があるそうだ。
目白のホテル『椿山荘』でも今の時期は、ヘイケボタルが飛んでいる頃だ。来月になればゲンジボタルが見られることだろう。
盃に 散れや糺(ただす)の とぶほたる 一茶
京都、下鴨神社が在る辺りを「糺(ただす)の森」と呼ぶ。夏は納涼の名所として賑わう名所だ。そうそう、森見登美彦の小説にも良く登場するネ。
一茶は、此処で涼を取り、酒を酌んでいたのかナ。盃に映る蛍火に感動し詠んだのだろうナァ。
◇ ◇ ◇
閑話休題。
昨日は東急目黒線からJRに乗り換え桜木町まで出た。
横浜の街も道行く人たちが傘を広げている。
居酒屋『武蔵屋』に着くと、既に満席だった。
夕べの様な雨はそれほど苦にならない。
武蔵屋の入口脇では、雨露に濡れたどくだみの花が可憐に咲いていた。
青梅雨や酒場の猫を濡らしけり 八十八
暫くすると次々に口開けのお客さん達が会計を済ませて外に出て来た。
皆が口々に「雨ん中、待たせてごめんね」「お待たせしちゃったネ」などと声を掛けてくれるので、とても朗らかな気持ちになるのだナ。
この日は、窓側の卓に座ることにした。
桜正宗の燗酒をコップに注いで貰う。
『武蔵屋』や根岸の『鍵屋』で吞む桜正宗は、どんな高価な酒よりも美味く感じるのだ。この佇まい、店の方々の優しい笑顔、そして集う客たちが渾然一体となってこの酒の味を引き立ててくれるのだろう。
昭和21年から続く酒場は、開業当時から変わらぬ佇まいだ。
カウンターの前には当時を忍ばせる銅の燗付け器が有り、その横には初代の親爺さんが桜正宗の土瓶を持つ人形が飾られている。
此処は酒は三杯まで。それに五品のつまみが付いてくるのだナ。
先ずは雪花菜(おから)と玉ねぎの酢漬けが出てくる。
僕は、雪花菜や玉ねぎの甘酢漬けが、日本酒のアテになると云うことを此処で覚えた。雪花菜には桜えびが入っており、ご飯のお菜ではなく、酒の肴にしてあるのが嬉しい。
少し遅れてタラ豆腐が登場。
二杯目の酒には納豆が出る。
優しい心遣いに感謝するばかり。
で、当然ながら、この様に口から持っていく訳だネ。
ゴクリ。思わず、クゥッと云ってしまうのだナ。
三杯目の酒と共に出されるのはお新香だ。
此処に来ると「ゆったりと酒を酌む」と云うことを覚えるのだナ。
武蔵屋は先代の頃から「三杯屋」と呼ばれている。酒は三杯までの決まりなので、僕らもこれにて終了だ。
三杯目の酒を吞み終えると、「おばちゃんからです!」と大きめの盃に桜正宗を注いでくれた。こんな心遣いが嬉しいのだ。
クッと吞み干して、ご馳走様だ。
テレビではワールドカップのアジア最終予選が放映中だ。小さなテレビデオだが、皆で熱く応援しながらホッピーがススんだ。
本田の素晴らしいアシストで決めた栗原の先制点に湧いた。だが、逆転の望みを賭けた本田のペナルティキックが、蹴る前に無情にもホイッスルが鳴ったのにはがっかりだったネ。
気を取り直して、またホッピー!
外はまだ雨が降り続いていたが、風が冷たく酔いも冷めたのだナ。
そんな訳で、夕べはちゃんと寝落ちせずに家路に向かったのであった。