東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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東京黄昏酒場/その11.恵比寿の老舗酒場『さいき』で梅雨を払う。

午後6時を過ぎても、空が明るい季節になった。
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東京は梅雨入りし、街は紫陽花の彩りに包まれている。

梅雨入りしたばかりの時季は、まだ新緑が蒼々としており雨に濡れた葉も爽やかに映る。この雨を青梅雨(あおつゆ)という。
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      青梅雨の 雲しりぞけつ 白鷺城    水原秋桜子

そんな梅雨の合間、暮れ泥(なず)む空が茜色に染まる頃、家路に急ぐ前に少しだけ寄り道をして行こう。今日一日の自分を振り返りながら酌む酒も良し、明日への活力となる酒もまた良し。
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今宵もそんな黄昏酒場を訪れるとしよう。

恵比寿駅を出て交番前の駒沢通りを渡るとすぐ左手にクルマの入らない路地に出る。奥へと進むと左右に多くの飲食店が軒を連ねている。その右手に酒寮『さいき』の灯りが見える。
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濃い紫地に白く染め抜かれた「さいき」の文字を潜ると中から女性陣が「おかえりなさい」と優しい声を掛けてくれる。

この時季は、玄関脇に置かれた縁台に店主の齋木邦彦さんが夕涼みをしていることが多い。ご常連の皆から「クニさん」と親しまれており、店主の笑顔に逢いに来る客が多い酒場だ。
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病を患ってからは、余り厨房に立たなくなったがクニさんの作る料理も大変美味しかった。それまでは黒板に書かれた料理が中心だったが、今は席に着くと三品の料理が出てくる。内容は毎回違うが、揚げ物、煮物や刺身など豊富だ。

ご常連たちが横浜野毛に在る老酒場『武蔵屋』の酒の肴の話に興味を抱き、店を訪れたクニさんがあの定番のお通しを参考にしたそうだ。
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一人で訪れる時などは、このお通し三品で十分満足出来る。数人での酒席ならば自慢のキャベツ炒めや海老しんじょう揚げ、それにカニクリームコロッケもお勧めだ。日によって違うが種類も多く足繁く通いたくなる料理ばかりだ。
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酒は、ビール、焼酎、日本酒と揃っている。

中でも一の蔵を凍らせた凍結酒が、六月の梅雨の鬱陶しさを忘れさせてくれる。
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一階はL字型のカウンターとテーブル席、二階は大勢で使える広間になっている。昔は文豪たちの宴席が頻繁に行われていたと聞く。吉行淳之介や先日他界した吉本隆明氏もよく吞みに来ていたそうだ。

生前の立松和平氏は、此処のカウンターが好きだった。今でも出版関係の方々や作家の姿を良く見かけるが、何よりも気兼ね無く吞めるのが嬉しい酒場だ。
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創業64年を迎えた酒場は古き良き昭和の時代を色濃く残しつつ、新しいお客さんをいつも笑顔で迎えてくれるのだ。

時には襟を正して酒に浸るのも良い。格子の窓から時折入る青梅雨時の風が心地良く酔いを冷ましてくれるだろう。

勘定を済ませ、席を立つと今度は「いってらっしゃい」の声が掛かる。そう、また此処に帰って来なくちゃいけないな。

細い路地には、そこはかとなく夏の薫りが漂っていた。
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by cafegent | 2012-06-14 16:31 | ひとりごと | Trackback | Comments(0)