今日は八月八日、暦の上では今日から「立秋」となった。季節を72種類に表した七十二候では、「涼風至」(すずかぜ、いたる)の頃。秋風が初めて立ち始める時季が来た訳だ。
しかし、東京の空は熱波がゆらりと漂っており、とても秋風など感じないネ。ただ、昨日の夕暮れに蜩(ヒグラシ)のカナカナカナと啼く声を聞いた。どこか物悲しげに啼く声に少しだけ夏から秋への移ろいの気配を感じたのだナ。
さて、昭和がずっと続いていれば、今日は「昭和八十八年八月八日」なのだネ。八が四つも並び末広がりの良き日でアル。
僕の俳号は「八十八」(やそはち)だが、これは米の文字をバラしたもの。歌人だった祖父の名前、米作から一文字戴いた。米作り農家の長男に生まれた祖父は弟たちに農業を任せ、若山牧水に師した。
晩年は印刷業を営みながら、北海道の歌人たちの歌集をボランティアのようにして作り続けていた。末広がりの目出たい日に今は亡き祖父を思い出したのだナ。
黒揚羽 揺蕩(たゆた)う先に夢のあと 八十八
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さて、昨日はカミサンが休みを取ったので、浴衣を来て出掛けることにした。
この浴衣は江戸時代の型紙を使って染めた桔梗(ききょう)柄だ。秋の季節を先取りするのが着物の粋なところだネ。半幅帯を貝の口に結び、小料理屋の女将さん風にしてみた。
僕の角帯は親爺が長唄にハマっていた頃にお気に入りだった帯だ。
今回は関西風に右巻きで締めてみた。
新橋駅前ビル1号館の一階に在る『信州おさけ村』は信州の地酒を常時百種類も用意している立ち飲み酒場だ。
先ずは乾いた喉を潤すため、信州のオラホビールが作るヴァイツェンを戴いた。
コクと芳醇な香りが暑い夏を爽快にさせてくれた。
先に来ていたダンディ岩崎さんは三種唎き酒セットだネ。では、僕も純米酒を三種選んでみた。
大信州、黒松仙醸、初鶯(はつうぐいす)の生一本。
一杯300円で提供しているのだが、三種類のセットだと500円になるのだヨ。なんとも懐に優しい酒場でアル。
少し遅れてネイリストのまゆみちゃんが合流した。
粋な着流しの爺さんもやって来た。
こんな年寄りになりたいものだネ。
『信州おさけ村』で仕入れた川中島の純米酒「幻夢」を持参して、この日のメインである『すし処まさ』の暖簾を潜った。
東京一小さなお寿司屋さんは、新橋駅前ビル2号館の地下に在る。
三人でいっぱいになる小体の店だが、椅子が少し小さくなったせいか今回は四人でお邪魔したにも関わらず、キツくなかったネ。
冷えた幻夢をグラスに注ぎ、店主の鈴木優さんとカンパイ!
米の香りがしっかりと効いた純米酒だネ。
今回のネタはご覧の通り。
さぁ、優さん劇場の幕開けだ。
先ずはクリーミーな岩牡蛎から。
最初はそのまま食べる。そしてレモンをギュッと搾って口へ放り込む。あぁ、ノッケから幸せが口の中に広がった。
続いて北海道の帆立貝を磯辺焼きで。
醤油も塩も酒がススむ逸品だったナ。
バカラのタンブラーはお水だ。
日本酒は水を飲みながらだと、悪酔いせずクィクィとイケるのだ。
料理も美味しいが、此処は何と言っても優さんの笑顔が良いのだ。
物腰の温かさと丁寧な仕事ぶりを眺めているだけで、酒席が和やかな空気に包まれる。此処は、本当に至福のひとときを過ごすことが出来る。
続いて、お造りは北海道熊石の牡丹海老とカツオだ。
濃厚な牡丹海老はねっとりとして甘い。このカツオも堪らん美味さだったなぁ。
そしてお待ちかね!牡丹の花が咲いた様なメバチ鮪のカマだ。
生でも美味いのだが、これをさっと炙ってタレをつけて戴く。
このタレは、マスタードを裏漉しして同量の醤油でのばし、酢を少々足して作る。このひと手間が素晴らしいのだナ。
ダンディさんもまゆみちゃんも初まさを愉しんで貰えているご様子で、なによりだ。
酒もススみ、料理の〆は自家製の濃い豆乳で仕上げた豆腐だ。
大豆本来の風味を味わえる自慢の一品でアル。
さぁ、美味しい料理の数々を堪能した後は、いよいよ握りの始まりだ。
先ずはマグロのヅケから。
赤身が実に巧く引き立っていた。云うこと無しの美味さだネ。
こちらは水蛸だ。
続いて小肌の三身付け。
絶妙な〆具合で、実に美味い。
続いて、青柳を握って戴いた。
アオヤギはバカ貝の剥き身のことを云うが、味よし、風味よし、そして歯ごたえ良しと三拍子揃って、僕の好物でもある。
優さんが包丁を入れているのは、愛媛県で捕れた釣りアジとのこと。
あぁ、脂が程よく乗って美味い。酒がススむススむ。
こちらは白イカだ。
ねっとりと甘く、スバラシイ味わいだ。
お次は横須賀で捕れたエボダイを炙りで戴いた。
エボダイは干物で食べることが多いが、鮮度が良いと握りでも美味いネ。
根室産の生雲丹(ウニ)は軍艦ではなく握りで登場。
最後は、鉄火巻きで〆た。歳を取ったせいか、このくらいの量で腹が一杯になった。若い人だともうちょっと握って貰うと良いだろうネ。
あぁ、大満足だったネ。この後のお客さんがまだ到着していなかったので、ゆっくりと寛ぐことが出来た。
優さん、今回も本当に有り難うございました。
今月はもう一回予約を入れているのだが、来たがっている友人に譲ることにした。少しでも『すし処まさ』ファンが増えると良いものネ。
新橋駅前ビルを出て、我々一行は新橋と銀座の間の路地裏に佇むスペインバルへ移動した。
『バル・ビエン』はワインやシェリー酒を気軽に楽しめる立ち飲みバルだ。
ハモンセラーノをアテに赤ワインを戴いた。
流石に日本酒一升を空けたばかりだったから、ワインはボトル1本で十分だったナ。
まゆみちゃんとダンディさんとは新橋で別れた。
カミサンは眠くなったと云うので、一足先に帰宅。残ったボクはいつもの酒場『牛太郎』の暖簾を潜った。と云っても、暖簾はとっくに仕舞われているのだがネ。
気心しれた常連仲間たちとカンパイ!
仕事を終えた店主のジョーさんとパチリ!
ハイサワーとクェン酸サワーを戴いた。
カウンターでは酒朋のライター森一起さんと学芸大学前のカレー屋『VO VO』の小川さんが呑んで居た。『VO VO』は昔の『GHEE』の味を受け継いでる新潟の名店の東京支店なのだネ。
一緒にいらした小濱さんはウェア・ブランド「MY LOADS ARE LIGHT」を営んでいる方だった。
ギーのカレーが好きだった森さんとも話が弾んだし、二人も初『牛太郎』を愉しんで戴けたみたいで何よりだったネ。
ジョーさん、ヒロシ君、ご馳走様でした。
こうして、昨日も愉しい一日を過ごすことが出来た。
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そんな訳で、今日の昼飯は学芸大学に在るカレー屋『VO VO』へ。
ランチタイムのコンビネーションカレーは、ベジタブルカレーとバターチキンにした。
ブルックリンラガーで喉を潤し、汗をかきながらカレーを戴いた。
暑い日のカレーは、躯によさそうだネ。さぁ、午後は何処に呑みにいこうかナ。