東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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日々是日記/8月末、天然鮎と天然鰻に酔う!

カミサンの誕生日と夫婦の結婚6周年の祝いを兼ねて、銀座の和食料理店『小十』にお邪魔した。
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陶芸家の故・西岡小十氏の名前を冠した店は店内に入った瞬間から美しい陶芸の作品群に目を奪われた。店主の奥田透さんは静岡出身で、地元の割烹旅館『喜久屋』から料理の世界に入り、あの名店『青柳』で修行を積んだ料理人だ。

西岡小十さんの作品が好きで、店を出す時にも使う器を焼いて戴いたそうだ。小十翁最後の作品になったと言うのだから感慨深いネ。

11年前に『銀座 小十』を開いて以来、ミシュランで三ツ星を獲得し続けており昨年はフランスのパリにも出店を果たした。オープン間もない頃はパリと東京との往復が続き、東京の店に居ない時も多くなっていたそうだが、最近は銀座の店に居ることも多くなったみたいだ。

今回も奥田氏が自ら腕を振るってくれる事を期待して、カウンター席が取れる日を予約した次第でアル。

美しい一枚板のカウンターは樹齢700年の檜だそうだ。席に座った時から「奥田劇場」の幕が開く。此処はワインも充実しているが、前日にワインを飲み過ぎたので、先ずは生ビールで始めることにした。バカラのローハンに注がれたビールで乾杯!

そして、最初に登場したのは、毛蟹と北海道産の生雲丹を焼き茄子とズイキの冷製和え物だ。毛蟹と茄子、雲丹と茄子、毛ガニとずいき、雲丹とずいき、と交互に味の変化を楽しんで戴ければ、と奥田さんが薦めてくれた。

この料理が載る器もまた素晴らしかった。真白き岩の砦の頂上に色鮮やかな雲丹と毛蟹の色が映える。青白磁の斬新な器は、陶芸家の加藤委(つばさ)さんの作品だ。加藤さんは僕より二つ若いが、僕が六本木のAXISで仕事をしていた時に同じビル内の陶芸ギャラリー『サボア・ヴィーブル』での初個展を観たのが最初だった。ギャラリー店主の宮坂さんに薦められて以来、好きな作家の一人となった。多治見出身の作家だが従来の多治見焼き、美濃焼きとはまるで違う作風は現代の陶磁器を牽引している陶芸家だと思っているのだナ。

酒は福島の純米酒「早瀬浦」を二合戴いた。ガツンとした中に感じる甘い香りが毛蟹の味を引き立ててくれた。

お次ぎはアワビの素麺すり流しだ。アワビの身をすり流しにして出汁と合わせてあり、素麺に絡み合う味に思わず唸ってしまった程だ。細切りにしたアワビの身肉も実に旨い。晩夏に涼を運ぶ一品だった。

三品目に出て来たのは、椀ものだ。
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鱧(ハモ)とじゅんさいの薄味の汁は胃に優しく「奥田劇場」へと誘(いざな)ってくれた。輪切りのズッキーニが無限の輪の如く美しい意匠を放っていたのが印象的だった。鱧は梅雨明けから今頃までが一番美味しい。

さぁ、此処からお造りだ。奥田氏、僕らの為に再び加藤委さんの大きな青白磁の器に盛りつけてくれ、その姿は迫力満点だったなぁ。
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鱧の湯引き梅肉添え、鮃(ヒラメ)の肝添えも美味い。細かく包丁を入れたアオリイカの何と甘いこと。飾りにちりばめられた白い玉は、山芋だ。これも箸休めにさっぱりと戴いた。

日本酒を変えてみた。お次ぎは三重の「寒紅梅」だ。
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山田錦を用いた純米吟醸は、スッキリした香りが清々しく、お造りとの相性も良かったネ。

そして、お待ちかね若鮎の塩焼きの登場だ。席に着いた時、目の前で活きた天然の若鮎を一尾ずつ串にさしていたのだが、それをじっくりと一時間もかけて焼き上げた極上の逸品でアル。
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聞くところによると、このアユは長野の天竜川で穫れる天然ものの活若鮎で、共に「青柳」で修行を重ね、今や盟友となっている日本料理の『龍吟』の山本氏と二軒だけで仕入れているのだそうだ。

活きたまま備長炭の遠火でゆっくりと焼かれるのだから、断末魔を迎えて口を開けている姿が印象的だが、一口食べてみるとその美味さに感動しっぱなしになった。
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こんがりと焼かれた皮はパリッとした食感で、中からはふわっとした身が口の中に溶けていく。川藻を食べて育ったその身は仄かに藻の香りを含み、肝もほんのりとほろ苦くて甘い。極上の鮎が、てんこ盛りに盛られているのだから、感無量でアル。

続いて、牛肉と冬瓜の炊き合わせが出た。
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夏の冬瓜は本当に美味しいネ。

酒もススむし、至福のひとときを味わっている。

さぁ、真打ち登場だ。夏の『小十』での人気の料理は天然の大鰻だ。
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蒸さずに炭火でじっくりと焼き上げ、自家製のタレを塗り重ねながら蒲焼きにするのだ。これには参った。もう見ている側から、ヨダレが出て来そうになるのだから。奥田さんは天然の鰻にこだわり続けている。しかも体重1キロ以上の大物しか仕入れないそうだ。力強く活きた天然鰻の味をシンプルに味わって貰う為に蒸さずに炭火で蒲焼きに仕上げるのだネ。外はカリッとして、中はふっくらと、肉厚ならではの旨みが凝縮されていた。
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山葵を載せて口へ運べば、白飯がススむのだ。思わずご飯をお代わりしてしまったなぁ。

あぁ、本当に美味しい料理を堪能した。
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最後は蕨餅とスイカのデザート、それにココナッツのソルベが出た。
煎茶の後に戴いた抹茶も素晴らしかったナ。

カミサンもとても喜んでくれた様子だし、8月の終わり『小十』に来れて良かった。安定した三ツ星のグランメゾンも良いが、常に意欲的な料理人が腕を振るう和食にして大正解だった。
by cafegent | 2014-08-31 14:02 | 食べる