東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

広重の愛した富岡八幡宮界隈を歩き、串煮込みに酔う

以前、歌川広重が浮世絵に残した風景を辿って歩いたことがある。「東都三十六景」の中で描かれた富岡八幡宮は、今でも東京の名所として親しまれているネ。僕が門前仲町に足を運ぶきっかけとなったのも、「東都三十六景」シリーズの「深川八まん」と云う浮世絵だった。

b0019140_14483597.jpg
この絵はちょうど桜が満開の季節。鳥居の上から鳩たちが参道に向かって飛び立つ姿が印象的だ。広重は、この版画の他にも「江戸名所」や「江戸高名会亭尽」などで何度もこの場所を描いているのだナ。

この「深川八幡境内」の絵では蘇鉄(ソテツ)の木が大きく描かれており、周りを料理茶屋が囲んでいる。この頃から、此処は多くの人々が訪れ賑わいを見せていたのだネ。


荒川と隅田川に囲まれた門前仲町は、周辺に木場公園や清澄庭園、深川不動堂などが在り、いつも大勢の人々が訪れている。駅から十分も歩けば、越中島の水上バス乗り場も有るので天気の良い日に東京水辺ラインの船旅もまた愉しい。


江戸三大祭りの一つ「深川八幡まつり」で知られる富岡八幡宮では、日曜に骨董市が催され、掘り出し物を見つける事が多い。僕も此処で「民平」(淡路焼き)の皿を見つけて、値段交渉をして手に入れた事があったナァ。


江戸情緒が随所に残る深川の中心、門前仲町の名は、永代寺の門前に開かれた町であり、江戸時代には辰巳芸者目当てに多くの旦那衆が茶屋に集まり賑わっていた。


その門前から真っ直ぐ清澄通りへと続く通りを歩く。深川公園を過ぎた辺りに、そこだけ昭和にワープした様な「辰巳新道」が在る。かつては、江戸から続く辰巳芸者たちが通りを行き交い、色香を放っっていたことだろう。男を真似て羽織を纏った辰巳芸者は、吉原芸者の派手さに対し、粋さを重んじ、いなせと俠気を売りにしたと云う。そんな気質が江戸っ子たちにウケて、広重の浮世絵などにも頻繁に登場したのだろうネ。


「辰巳新道」は、間口九尺二軒の小さな店が三十店近く軒を連ねており、夕暮れと共に酒を求める人たちが集まって来る路地だ。


辰巳新道と清澄通りの間にひっそりと佇む『大阪屋』は、大正時代から続く牛煮込みの酒場でアル。

使い込まれた白木のカウンターには「この店の主人は私だ」とでも言わんばかりに、真ん中にデンと煮込み鍋が鎮座している。


サッポロ赤星の大瓶をお願いすると、シュポンッと栓を抜いてくれて小さなビールグラスと共に白木のカウンターに置いてくれる。

此処では、席に着くと四つに折った白い布巾と自家製のお新香が出てくるのだ。この白い布巾はよくおしぼりと勘違いする方も多いのだが、大坂屋の煮込みは濃い色の煮込みツユの中に串に刺さった牛モツが浸かっているので、串もしっかりと鍋に浸かっているのだネ。そんなワケで、串を持った手を拭くために用意されているのだ。

 

鍋から聞こえるグツグツと沸く音が至福の時へと誘ってくれるのだ。此処の煮込みはシロ、フワ、ナンコツの三種のみ。甘過ぎず、辛過ぎず丁度良い塩梅に煮込まれて、どの酒にも合う。焼酎の梅割りが一番だが、三杯も呑めばボディーブロウのように酔いが回って来る。


夕方四時の口開け時は、先代の頃からの古いご常連が多い。

今は、三代目に当たる佐藤元子さんとお嬢さんが煮込みの味を守っているのだが、天井近くを覗いてみると、先代がじっと鍋を見つめているのだナ。


2010年の春の紫綬褒章を受賞した映画監督の根岸吉太郎さんも此処の煮込みが好きでアル。監督が色紙に残したコトバが何とも素敵なのだ。


        写真の中の親父の煙草 

        灰が鍋の中に落ちないか

        気にかかる。

        それにしても、いい顔。


頑固な親父さんの意志をしっかりと受け継いだ元子さんも、行儀の悪い人やタチの悪い酔っぱらいには手厳しい。ちゃんと酒の吞み方を判っている方には、とても優しい笑顔で迎えてくれるのだナ。皆さんも是非、此処を訪れたら鍋の上に飾られている先代の写真と根岸監督の色紙を見てもらいたい。この酒場を知って良かったと、しみじみと感じる筈だから。


僕はもっぱら一人で訪れるのだが、俳句の話や旅行の話でいつも愉しい酒となる。


今は、元子さんの厳しい指導の元、四代目を受け継ぐお嬢さんも店に立っている。元々、ピアノの先生をしていたのだが、以前から店が忙しい時は手伝いに来ており、古いご常連さんたちからも可愛がられていたので、四代目になると聞いた時もそんなに違和感はなかったナ。


都会の喧噪を逃れ、ちょいと路地に入れば、ほっこりとなれる酒場が待っているのだ。ビールを飲み干したら、梅割りにしよう。ストレートグラスになみなみと注がれた焼酎に下町ハイボールでお馴染みの梅エキスを垂らしてくれるのだ。冷たく冷えた梅割りが呑みたければ、氷の入ったグラスを出してくれる。こんなちょっとした気遣いが名酒場たる所以なのだナ。


小さな半円カウンターと壁際の席で十人も入れば一杯になってしまう小体の店だが、此処は心優しい客が多く、席を詰めてくれたり切り上げて席を譲ってくれる。そんな下町の心意気に触れられるのも、煮込みの味と共に「大坂屋」の魅力である。四時開店なので、深川散歩に疲れたら此処の暖簾を潜ると良い。牛もつ煮込みを肴に、焼酎の梅割りや燗酒が疲れを癒してくれるのだ。


煮込みの〆には、名物の卵スープがおススメだ。崩した黄身に串から外したシロをつけて食べてみて欲しい。ほっぺたが落ちそうになる程に美味いのだ。


小さな酒場故に長ッ尻もいけない。程よく酔ってきたら、新客に席を譲ろう。路地を曲がれば「辰巳新道呑み屋街」も在るし、永代通りを渡れば魚が旨い『魚三』だって開いている。さぁ、広重も愛した街を歩いて、酒場の暖簾を潜ってみてはいかがかな。



東京黄昏酒場/大坂屋
[PR]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
by cafegent | 2017-07-14 14:51 | 飲み歩き | Trackback | Comments(0)