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by cafegent
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ひきこもりの天才、ヘンリー・ダーガーの展覧会を観る

アウトサイダー・アートの孤高の天才、ヘンリー・ダーガーの展覧会が原美術館で開催されている。土曜日の午前中にオフィスに行く用事があったので、その帰りに散歩がてら北品川まで観に行く事にした。
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5年程前に青山のワタリウム美術館で観て以来の展覧会だが、原美術館の独特の空気感の中で観ることで、改めて生涯を孤独の中で過ごしたヘンリー・ダーガーのインサイドの部分が見えたような気がした。

今回の展覧会は、作品展示だけではなく、ヘンリー・ダーガーが81歳で亡くなるまでの生涯を過ごしたアパートの一室の光景。彼が集めた膨大な雑誌や電話帳を使ってに貼られたスクラップブック。棚や壁に飾られたキリストの像や十字架、少女の写真等々、人に会うのを嫌い、時には遠くまで歩いて行ってゴミの中から何かを拾い集めていたと云う尋常じゃない収集癖の孤独な老人の姿が浮かび上がってきた。
また、彼にアパートの一室を提供し、生涯に渡り相談役になったり気にかけていた
大家さんのラーナー夫妻にも触れている。作品群を整理して、保存し、生前のヘンリー・ダーガーの過ごした世界を写真に記録し、絵画展と云うよりは、ヘンリー・ダーガーの頭の中の世界を覗く展覧会だった。

ヘンリー・ダーガーが『非現実の王国』の中で描く7人の美少女戦士「ヴィヴィアン・ガールズ」。彼の描く美少女の股間には小さな男性器が描かれている。
以前、何かの記事で読んだのだが、感情障害との理由で児童施設に預けられたり、ちゃんとした教育を受けないまま17歳で施設を脱走し、それ以後カトリック系の病院で皿洗いなどの職に就きながら60余年を人と接さずに過ごしたので、ヘンリー・ダーガーは、一度も生身の女性の裸体を見た事がなかったので、自分と同じ性器を描いたのではないだろうか、と。
でも、はたして彼は本当に女性器を見た事がなかったのだろうか。あれだけ膨大な雑誌の収集をしていたのだから、当然アダルトな雑誌だって拾ってスクラップしていただろう。きっと、彼の創造の中にある『非現実の王国』には現実の女性は必要としていなかったのじゃないだろうか。空想の世界の中だけに生きる「両性具有の美少女」を幾つも登場させる事でリアルワールドとの完璧な遮断を試みたように思えるのだ。

原美術館の階段横に飾られた「彼の過ごした部屋の写真」を見て感じた事があった。
あの部屋自体が実はヘンリー・ダーガーそのものであり、本当は誰にも開けさせたく無い彼自身の世界を、彼の死後「現実世界に生きている世間」と云うモノが勝手に彼の部屋の扉を開けてしまっんじゃないかと思ったのだ。しかし、それは陰から彼の力となり、没後に膨大な作品の整理とヘンリー・ダーガーと云う一人の天才アーティストを世の中に紹介した家主であるラーナー夫妻の尽力とは、何か相反している様な感じがしてならないのだ。内なる彼の世界をそっと見守るための作品紹介となると難しいものだなぁ。
僕も小さな頃に無邪気に絵を書いて空想の世界に浸っていた事があった。でも、決してそれは人に見られたく無いモノであり、兄貴にだって見られないように引き出しの中に隠していたものだ。たぶん、ヘンリー・ダーガーも19歳から10数年の歳月をかけて書いた15,000ページ以上にわたる長編小説『非現実の王国』をその後、清書し直したりしている事から察するに、自分が唯一存在できる世界「アパートの一室」の中で、生涯を終えるまでずっと繰り返し思い描く世界の具象化を試みたのだろう。でも、それは決して誰かに見せるためのモノじゃなかった筈だ。
彼の作品にはかなりグロテスクで残虐な光景が描かれたモノも多くあるのだが、今回展示されている作品は戦争が終わった後の楽園の世界を中心に構成されたそうだ。解説にそう記されていたので、展覧会意図なのだろう。
以前に観たグロテスクな作品群で感じた事は、「本当は観てはいけなかったモノを観てしまった」ような実に胸が苦しくなる感覚だった。

そう云えば、桐野夏生の「リアルワールド」と言う作品の表紙にヘンリー・ダーガーの絵が部分的に使われていて、書店で手に取って思わず買ってしまったことがある。
それ依頼何となく彼女の作品を読むようになった訳だが、少し前に読んだ作品のタイトルが「グロテスク」だったっけ。

ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で
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「ヘンリー ダーガー  少女たちの戦いの物語 ー 夢の楽園」
2007年7月16日まで、北品川の「原美術館」にて開催中(月曜休館日)
「原美術館のサイト」
by cafegent | 2007-05-21 19:51 | ひとりごと