東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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南千住『尾花』の鰻に舌鼓。

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古く「万葉集」の中で「うなぎ」のことを「むなぎ」と記されている。身が長いと云う「身長」が「むなぎ」となったのか。これが、江戸時代になると違う説も出て来るのである。それは、元々「ぬる」と呼ばれていたが、鵜飼いの鵜が口中に飲み込んだ鰻を船上で吐き出させる時に鰻の胴が長く、鵜がとても苦しんで苦労をしたので、「鵜が難儀をする」ことから「う、なんぎ」で「うなぎ」と謂われるようになったとの諸説が或る。江戸の古典落語には、「うなぎ」をネタにした噺が幾つもあるが、「後生うなぎ」と云う落語はかなりブラック・ユーモアなオチで笑わせてくれる。

先日、久しぶりに美味い鰻を食べに出掛けた。
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南千住の『尾花』は、僕が個人的に東京で一番旨いのではないだろうか、と思っている鰻屋だ。以前はいつでも天然ものの鰻だったが、今はその時々によるみたいだ。
東麻布の『野田岩』も麹町『秋本』も好きな鰻屋であるが、その辺りの店の中で一番となるとどうしてもここになる。南千住の駅を出て線路沿いを5分程歩いた処に在るのだが、まずその佇まいが良い。入口の暖簾の前に立つと、あぁまたここに来れたか、と自分に感謝する。門の右側に氏神様の祠が在るのだが、いつもここで手を合わせてから門をくぐることにしている。
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靴を脱いで、下足札を受け取り、座敷へ上がる。畳敷きの広間に小さなちゃぶ台が幾つも並べられており、他の客と一緒になって鰻が焼き上がるのを待つと云うのも愉しいひと時である。午後の日差しが差し込む座敷で隣合わせになった客とかるく言葉を交わすのも楽しいものだ。
こんな風情が判るようになれば、この店の魅力が「天然の鰻」だけでは無いと云う事も判ってくるものだ。
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夏場だと1時間は平気で待つ程の行列が出来ているのだが、この店は注文をしてから鰻を捌き焼くので、どちらにしても其れ位は待つ事になるのである。であるから、まずはビールと「うざく」を戴くことにする。
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ここの「うざく」は甘酢が効いていて、日本酒だと甘さが重なってしまうのでビールが良い。うなぎを喰ってしまった後も、残った甘酢をちびちびと舐めながらビールを酌るのがたまらなく好きなのだ。女性と行くのならば、「う巻き」もオススメだ。鰻の蒲焼きをふんわりとした卵焼きで巻いてあり、タレをつけて食べるのだが、誰もが「美味い!」と云うに違いない。また、「お新香」をつまみながら日本酒ってのも良い。

酒を日本酒にしてお銚子一本空いたところで、おまちかねの「うな重」がやってくる。ここのうな重は、鰻の量により二千五百円、三千円、三千五百円と三種類ある。不思議なのは、何故か真ん中の三千円の重だけが丼で出て来るのだ。「あぁ、あの人は三千円のを食べているのだね。」と判るようにしているのだろうか?僕は一品料理を肴に酒を一献つけるので、二千五百円の重で十分なのである。
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さて、『尾花』の鰻の蒲焼きであるが、それはもう見事なものだ。肉厚ながら、ふわふわと口の中で溶ける程の柔かさである。サクっとしたいかにも炭焼きの鰻が好きな人には少々物足りないと感じてしまうだろうが、ここの鰻は別物である。タレの味も甘過ぎず程良い。夜などは、うな重を食べずに、「白焼き」を山葵で戴くのも良い。これは酒が進む。

かれこれ二十年くらい前は、小金が出来ると男連中でつるんで吉原界隈に繰り出したものだった。まずは景気付けに『尾花』の天然鰻でスタミナつけるか、『土手の伊勢屋』の天丼喰って、目当ての湯女の居る店を予約して行ったものだ。たまに誰かが延長なんかをしちまうので、先に昇天した奴らは待合室で間抜け面をつけ合わせて待つことになる。こんな奴らを待つくらいならば、尾花の鰻を待つ方がよっぽどマシか。全員がコトを済ますと、今度は餃子の『末ッ子』であのコはどうだった、こうだった、とアホな下世話に花を咲かせていたなぁ。

今じゃ吉原もトンとご無沙汰だ。『尾花』を出たら、線路を跨ぎ泪橋の方へ向かうことにした。
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『大林』の暖簾をくぐり、凛とした空気の中で酎ハイを戴く。親爺の立ち位置がいつも変わらないのが嬉しい。機嫌が良いのか悪いのかさっぱり判らない表情もまたいつもと変わらない。僕は『尾花』と『大林』の暖簾をくぐるためだけで、南千住に来る価値が在ると思っている。

さぁ、この鰻のスタミナはどこで使うとしようかな。
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by cafegent | 2007-10-04 18:33 | 食べる