東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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至福の鮨を味わいに、あの店を訪れた。

先日、蒲田の「くま寿司」を訪れて、素晴らしい車海老の握りを食べたのだが、どうも凝り性の気の有る僕は、食事も続いてしまうのである。美味い鰻を戴くと、鰻三昧の日々が続く訳で、医者から「高脂血症」の疑いが在るからコレステロールを控えるようにと告げられたばかりだ。

しかし、そう簡単に控えられる訳も無いのである。「美味いもの病」に取り憑かれている僕は、久しぶりに「あの」お寿司屋さんを訪れることにした。
僕のオフィスが目黒の大鳥神社近くになったので、今までは「わざわざ出掛ける」と云う感じだったのが、ちょっとぶらりと散歩がてらに寄れる距離になったのは大変嬉しい限りである。
そして、目指すお寿司屋さんは、大鳥神社から15分程の林試の森公園の先に在る。

元気そうな姿で書き物をしているご主人とご挨拶をし、席に座る。外の寒さは穏やかになったのかなぁ。
先ずはサッポロビール赤星の大瓶、血合いと髄を完璧に取り除いたハゼの骨を三日間外で干し、揚げたもの。これ、血抜きをしっかりとしているので外に干してもハエ一匹来ないそうだ。

伊豆のアワビを大根と一緒に酒で5、6時間蒸し上げ、それを酒と一緒に型に入れ煮こごりにした。味付けは日本酒のみである。
ご主人、またも素晴らしい事を教えてくれた。世界中どこにも無い日本料理独特の味付けがこの「淡味」と云う味だそうである。

ご主人が京都の宇治で見つけたと云う「三陸のカツオ」。これに和芥子と卸した玉葱の醤油だれを乗せて食す。今度は能登の鯖。これも同様に和芥子で頂く。

次に登場したのは新作だそうだ。
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「カツオのコロッケの揚げ出し」なのだが、コロッケを割ると中からなんと巨峰葡萄が顔を覗かせている。巨峰の酸味がカツオとマッチして、絶妙な味に仕立てている。主人曰く「季節の食材はどれも合う」。
なるほど。

三河の秋蝦蛄(シャコ)はふっくらと炊きあがって素晴らしく美味い。蝦蛄は春が一番で秋も第二の旬だそうだ。
酒を日本酒に切り替える。最初は新潟の辛口、越乃松露と秋田の純米、奥清水を頂いた。

またも凄い組み合わせの一品が出た。
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気仙沼の天然真牡蛎を信州のりんごと一緒に焼きあげていた。手作りのいず味噌を土手に小降りの牡蛎と旬のきのこが乗っている。りんごの甘酸っぱい味と信州味噌の香りが程よく混ざり合い素晴らしい味だ。

北海道鼻先から届いたと云う毛蟹の巴蒸し。白子と蟹の味噌、内子を沖縄の塩のみで蒸す。素材の美味さが引き立つ一品だ。

握りに行く前に、少し日本酒に合う珍味を戴いた。
三年モノのかつをの酒盗と二年モノのまぐろの酒盗。魚の胃と肝臓を熟成発酵させた酒盗は、魚を漬ければくさやになるしお握りに塗って焼いても美味いと教えてくれた。まぐろの内蔵は、矢張りでかいのだろうか。作っている時の物凄い量を想像してしまった。

ここで、鮭の肝臓をお茶で炊いたものを戴いた。これも日本酒に合う。そろそろ握りとの事なので、酒も比較的さっぱりしたものに切り替える。まず、米沢の吟醸酒「三十六人衆」を頂いた。

べったらの浅漬けを箸休めにする。
日本酒が余りにも美味いので、もう一品、珍味を戴く。五年モノ鮎のうるかだ。肝臓の苦みと共に鮎が川の中で食べている苔(コケ)の味を堪能できる。
続けて天然鮎の精巣と卵巣のうるかを出してもらった。こちらは二年モノだそうだ。爪楊枝の先で少しづつ舐めていれば、いつまででも日本酒がイケてしまうので困ったモノだ。

酒は越後の吟醸「越の魂」と云う初めて呑む銘柄だ。こちらは先程のよりもすっきりかな。クイクイいけてしまう酒だ。

またお漬け物を戴く。マスクメロンを溜り醤油で漬けたお新香だ。小さく可愛いメロンだが、生産農家で間引きしたモノだそうだ。しっかりとメロンの香りが漂うところが嬉しい。またも酒がススむ。
今度は群馬の大吟醸「水芭蕉」。水も米も酵母も全て群馬の物を使った純米の地酒だ。
握りの前の珍味に圧倒されて、随分と酒が進んでしまったナ。

さぁ、ここからいよいよお待ちかねの握りの時間だ。ご主人から「きんちゃん」の愛称で呼ばれているぼくとつとした愛弟子が「寿司はしゃりが命ですから、」と佐藤さんと全く同じ名セリフを言ってくれるのが実に愉しい、と云うか素晴らしい。もう一挙一動、この名店の神髄を受け継いでいるのだ。

先ず、皮剥ぎの肝和えが手の上に乗る。ここは握った寿司を必ず手の平の上に出す。そのまま、口へ運べば良いのだ。もう言う事無しの美味さである。

今度の酒は石川県手取川の「よしたか」と伺ったが、これも初めてだ。うん、これもまた握りに合う。
お次は、淡路産さよりの酢橘洗い。サッと酢橘をくぐらせたさよりが美味い。今度はそのさよりの皮を炙ってくれた。あぁ、これも酒にピッタりだ。
今度は酒塩白魚(さかしおしらうお)と芝えびのそぼろ握り。これは、江戸時代の寿司だ。冷蔵庫の無い時代に酒と塩だけで白魚を蒸して、保存する。素材の味を活かした逸品である。

さてここからお待ちかね、小肌の登場だ。先ずは,酒かすから造られた赤酢で〆た小肌から。これはもう直球だ。次は米から造った白酢と酒で〆た握り。こちらの方が少しあっさりしている。うぅ、どちらもすこぶる美味い。
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寿司は小肌だ!と言う輩が多いが、ここでも結構居るそうだ。
ご主人曰く「小肌、小肌、ってうるせぇんだよ。独りで仕込んだ小肌全部喰っちまうような奴もいるんだよねぇ。でも、毎度毎度だから、こっちも心得たもんよ!」って、実に愉しそうに語っていた。

ここで一つ旬の握りを出してくれた。
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焼き松茸と本まぐろの炙りだ。これは手に持つとしゃりが崩れてしまうから、と小皿で出てきた。ご主人、「そのまま口を持っていって食べてね」との事。ふむふむ、と一気にパクついた瞬間、松茸の強い香りが鼻から抜けていった。脂が落ちたまぐろも口の中で溶けてしまう程柔らかかった。

そして、小肌三本勝負の最後、柚子〆小肌の握りだ。白酢に柚子の香りづけが小肌を上品に仕上げていた。たとえるならば、阪急電車で通学する普通の一般女子が宝塚歌劇団に入団出来たような味だナ。全然、喩えになってねぇなぁ、こりゃ。

天然の真牡蛎をそのままで戴いた。シャリも握らず、何もつけず、そのままだ。小指の先程の小さな真牡蛎は冷たい海の味をそのまま味わうことが出来て素晴らしかった。先程食べた信州林檎との味も絶妙だったが、素材がこれだけ良いのだから美味い筈だ。

今度は、ハゼの肝和えが手に乗る。むふふ、としか言いようがない味。
これはハゼの皮を熱い酒で洗っているそうだ。最初に出された鮑も酒のみで蒸していたが、酒は万能な調味料なんだなぁと感心してしまった。

続いて、真白子。だんだんと白子の季節だね。江戸前の青柳ぎを食し、ここでご主人「美味いの入ってるから出すよ!」と蝦夷(えぞ)あわびの肝付けが登場。肝の苦みがあわびの味を引き立たせていて絶品の味。
青柳の小柱を塩で戴く。平貝の握りも貝好きにはたまらない。

お腹も段々と膨れてきたが、これは外せない。蒸し蛤の握りを出してもらった。砂糖を一切使わず、酒と味醂と三十年もの間継ぎ足して来たと云うツメが素晴らしい甘さを出している。あぁ、幸せのひとときだ。

ここでまた箸休めが出て来る。
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これもここの名物、さくらんぼの芝漬けだ。綺麗な色が緑の笹に似合うなぁ。

ふっくらとした穴子の釜あげも素晴らしい。先程のツメがここでも活躍だ。
もう満腹であったが、最後にもう一つ握ってもらうことにした。これも冷蔵庫の無かった江戸の頃の保存法を活かした一品だが、茹でた車海老を卵のおぼろに漬けてある。江戸時代は粟やひえに漬けて保存していたそうだが、漬け床の卵のおぼろをシャリ代わりに握った車海老のおぼろ漬けは文句なく美味い逸品だ。ここに来てこれを戴かないと終わりが来ないのである。

小さな店内もいつの間にか、お馴染みさんたちで満席になっている。隣の席のお嬢さんたちが「こんなの初めて〜!」って黄色い声を挙げると、ご主人一言「あたりめぇだよ。俺がここで初めて創るんだからさっ!」って饒舌ぶりを発揮している。
美味しい料理と美味しい酒、そしてみんなの笑い声が素晴らしい至福の時を過ごさせてくれるのだ。

ご主人の佐藤さんも暫くの間体調を崩していたとお聞きしていたが、この日は変わらずの冗談まじりの江戸前寿司談義を聞かせてくれた。昼間は病院でリハビリ治療をしているとお内儀のはるこさんが教えてくれた。佐藤さんも付け台の中で元気な姿を見せているが、まだ握るのは難しいそうだ。早く良くなってくれると良いナぁ。

ここのお手洗いの中、正面に掛けてあるのは先代の主人の描いた書だ。そこには、「辛棒する木に金な成る。健康は命より大事」と或る。
佐藤さんが「まったく、先代が書いた通りだ。健康は命より大事だなぁ。」と先代の頃からのお馴染みさんに語っていた。
先代の女将さんも元気に店に出ているし、若いお弟子さんたちも見ていて清々しいばかり。ご主人も早く良くなって欲しいを願うばかりだ。

外はすっかり日が暮れて、風の冷たさが秋が深まっている事を告げている。住宅街の中にひっそりと佇むお寿司屋さんの灯りは訪れる度に温かくしてくれた。
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by cafegent | 2007-11-09 18:47 | 食べる