神保町で粋な人形に出会う。浅草で粋な啖呵売に酔う。
2009年 07月 08日
酒の友が集う神保町の『兵六』に、ほぼ連日口開け間近に通う丸口屋舌波(ゼッパ)兄は、江戸の文化風俗に詳しく、落語にも精通している。その辺りの話を聞けば、大抵の事は答えてくれて、こ奴いったい幾つやらと思ってしまうのだが、実はとても若いので驚くばかりでアル。
先日も薩摩無双を呑みながら、いつもの連中と他愛のない馬鹿話に高じていた。
夏になると僕は落語の「船徳」が聴きたくなる。「四万六千日、お暑い盛りでございます。」ってのを聞かないと夏が来た気がしないからだ。で、この噺を十八番(オハコ)にしていると云えば、八代目桂文楽師匠だネ。先日もそんな話を書いたっけ。
するってぇと、彼が趣味で製作している文楽師匠のフィギュアが有ると云うじゃないか。フィギュアとは、そう人形だネ、それも彼の大好きな噺家がモティーフとの事で、日々コツコツと創っているそうだ。
そして、此の場に持って来ているとの事だった。
この八代目桂文楽師匠もイイねぇ。
これは、もう立派な芸術だネ。早く沢山の方々にも観て頂きたいので、展覧会が待ち通しばかりでアル。
ニューヨークのブロードウェイに行くと、歴代のミュージカルスターたちの似顔絵、カリカチュアを壁に飾るレストランが沢山在る。中でも『サーディーズ』が有名かな。どれも、顔や姿の特徴をデフォルメして表現しており、本物以上に個性豊かに描かれている。舌波兄のフィギュアも正にそれに通じているのだが、立体作品で表現するのは可成り難しいんじゃなかろうか。
そう云えば、NYタイムズで活躍した似顔絵師のアル・ハーシュフェルドが6年前に他界していた。役者のカリカチュアと云えば、この人の右に出る者は居ないと云う程の画家だった。
舌波兄から噺家のフィギュアを見せて頂いた数日後、今度は『兵六』に集う常連たちを描いたイラスト画を拝見した。そして驚いた事に、ハーシュフェルドも真っ青ってなくらいにデフォルメ化された見事な似顔絵画だったのだ。こりゃ、もう立派なプロフェッショナルの領域であろうか。絵とフィギュアの両方を見てしまったのだから、どちらも是非展覧会で発表して欲しい。神保町は出版社の街なのだから、アート情報に敏感な方々は、この丸口屋舌波(ゼッパ)兄を要チェックしなくてはイカンな。青田買いイチオシの作家になると思うナ。
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日本の大道芸のひとつに『物売り口上』と云うのがある。関東では、渥美清演じるフーテンの寅こと車寅次郎の威勢のいい口上がお馴染みかもしれない。
「結構毛だらけ猫灰だらけ、ケツの廻りはクソだらけ!」「大したもんだよ、カエルのしょんべん。見上げたもんだ、屋根屋のふんどし。」「四角四面は豆腐屋の娘、色は白いが水臭い、粋なネェちゃん立ちションベン、ときたもんだ。信州信濃の新蕎麦よりも、あたしゃあなたのソバがいい。どうだっ、おい、買え!おーし、マケちゃおう!」なんてのが、寅さんお得意の口八丁手八丁での叩き売り。我が、酒仲間のアラちゃんは、コレをスラリと云ってしまうから凄い。
最近でこそすっかり見かけなくなったが、僕が小学生の頃はまだ清正公さまの縁日などで見ることが出来た。役所広司初監督作品の映画『がまの油』にもがまの油売りのが登場し、口上を聴く事ができる。「さぁ、お立ち会い!御用とお急ぎじゃ無い方はゆっくりと聞いておいでッ!」ってな具合で、今でも覚えているもんだ。
この朝日新聞の記事で、浅草に来るって事を知ったのだ。
『啖呵売』とは、祭の露天などで、テンポの良い口調に乗せて商品を紹介し、値段を変えたりしながら、客の気を惹いて売って行く商法のことでアル。今回の『物売り口上(タンカバイ)の魂』では、このタンカバイをひとつの芸として演じ、後世に残して来た「大道芸の第一人者」坂野比呂志の没後20年記念としての追悼公演だった。
観ているコッチも自然と乗ってくる。他の客に競り勝ってバナナをゲットした時のなんとも気持ちの良いことか。とても貴重な体験をさせてもらったナ。
雷門の前では、角隠し姿の花嫁が人力車に乗っていた。
この日は、夕方5時に受付開始だったので、先ず真っ先に『木馬亭』に向かった。
小一時間程呑んで、近くの着物屋で夏の浴衣を探した。本染めの良い柄を見つけたが、値段も大変ヨロシ。財布と相談し、また次回にした。着物と違って、浴衣は男でも大胆な柄を楽しめるから愉しいね。今年も銀座五丁目の『新松』で両国浴衣でもあつらえようかと思ったら、なんとアノ『花畑牧場』になっちまってた。銀座の老舗が消えるなんて、残念だなぁ。