東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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仙台酒場巡りの旅その2/元祖炉ばたで囲炉裏を囲む。

『源氏』は、実に酒場らしい酒場であった。
こんな名酒場を全国各地に知っておくと旅の楽しみが倍増するのだナ。
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『文化☆横丁』を出て、お次ぎは国分町通りへ向かった。
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冷えて来たのでアーケードの中を抜けるのだ。

酒朋キクさんイチオシの居酒屋『元祖 炉ばた』へ初訪問となった。
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神保町『兵六』同様に歴史の在る店だが、初代の店から移転して綺麗なビルの中に在った。

東京や札幌で炉端と云えば「炉端焼き」を想い浮かべるだろう。
炉端焼き屋の店内は長年の煙で燻され壁も天井も飴色になっている。
ところが、此処は違うのだ。
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煙のケの字も出ない程、見事に美しい店内なのだ。畳敷きの真ん中に小さな囲炉裏が置かれ、畳を囲む様にカウンターがぐるりと廻っている。

先ずは、地酒「天賞」の純米酒を冷や(常温)で戴いた。
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お通しに出て来た筍と野菜の煮物もお浸しも優しい味で素晴らしい。
小松菜のお浸しに海苔って合うのだネ。
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此処は、恵比寿の居酒屋『さいき』同様に最初に三品の肴が出される。
これが、どれも抜群に美味しく酒が進むのだ。帆立貝の天ぷらも美味。
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これだけで十分酒が愉しめるって訳だ。

元来、此処『炉ばた』では、囲炉裏端を囲んで酒を呑み語らう場として始めた居酒屋なので、いわゆる「炉端焼き」とは違うのだそうだ。
すなわち、女将さんが座る囲炉裏では魚介も山菜も焼かない。
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年季の入った燗付け器が有り、大きな瓶(かめ)から酒を注ぎ燗を付けるのだ。程よく暖まった酒は、炉端焼き屋でもお馴染みの木のしゃもじで客の前に出される。
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皆さん、この大きなしゃもじを持たせてもらったのだが、意外と重いのに驚いた。

初代の富弥氏が此の店を開店するにあたり、知人が何かお祝いに飾る物をと古道具屋を探して見つけた品が此処で使われている大きな木べらなのだそうだ。
元々初代は居酒屋の他にも骨董古美術店を営んでおり、店の店内にも様々な骨董古民具等が飾られている。それ故、店内に飾る物を進呈したのだが、数日後に店を訪れたら、すっかり自分の腕の様に器用に木べらを操り、酒や料理を載せて客の目の前まで出したそうだ。
これが、後々全国の「炉端焼き店」に伝承し、今に至っているそうだ。

しかし、あの炉端焼きの定番しゃもじ出しが、此処の先代の考案だったとは今まで全く知らなかった。

この店で修行をし、暖簾分けをした方が北海道釧路で炉端焼きの店『炉ばた』を営んでいる。こちらも五十余年の歴史ある名店だが、煙が立ち上る囲炉裏での炭火焼を始めたのは、こちらが発祥である。仙台の『元祖炉ばた』のご主人たちも今でも交流を深めているそうだ。

仙台が誇る郷土詩人に鈴木碧(スズキヘキ)と云う人物が居た。
残念ながら1973年にお亡くなりになってしまったが、童謡「七つの子」や「紅いくつ」を書いた野口雨情と共に宮城県の児童文化活動を牽引して来た詩人だ。
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この本の表紙は、谷内六郎画伯の絵だ。凄いなぁ。初代は谷内六郎さんとも仲が良かったそうだ。
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スズキヘキ翁は無類の酒好きで、随分ココで呑んだくれていたそうだ。
(のちのペンネームをカタカナに変名している)
そして、ちょっと変わっているが、とても愛嬌があり皆に好かれていたらしい。

吉成山『活牛寺』の近くにはスズキヘキの童謡「ワカレタスズメ」の歌碑が在る。永六輔氏も好きな詩人と語っている程だ。県の中央児童館広場にも「オテントウサンアリガトウ」の童謡碑が在る。

熱燗で気持ち良く酔って来た頃、厨房の奥からご主人が現れ、スズキヘキ作の童謡「オテントサンアリガトウ」や天江富弥(あまえとみや)作の童謡「のんのさんのポッポ」を唄ってくれたのだ。
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実は大正10年に日本初の童謡専門誌「おてんとさん」をスズキヘキと創刊した天江富弥こそ、此処『元祖 炉ばた』の初代店主なのである。
ちなみに最初に呑んだ地酒「天賞」を造っている天賞酒造が店主の実家だそうだ。

『元祖 炉ばた』に集まる古い客たちは、皆ヘキ翁らの創る童謡が好きで、いつの間にか童謡を唄う会も出来たそうだ。
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北寄貝の刺身も日本酒に合い、どんどん酒もススんだ。
酒を熱燗に変えた。躯が温まるナ。
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囲炉裏の前にある瓶(カメ)から徳利に酒を移し、燗酒器の中へ。
その光景を眺めているだけでホっとする。

ご主人が葉わさびのお浸しをご馳走してくれた。
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ツンッと山葵が鼻に効く。これまた酒のアテにヨロし。
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隣りに居た方は、この近く出身なのだが、仕事が東京と仙台の行ったり来たりなのだそうだ。芭蕉が好きで「おくのほそ道」を辿る旅を続けているそうだ。素敵な趣味だよネ。

僕の真正面に座ってた可愛いおばあちゃんは、まるで『兵六』の紅さんの様だった。
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店主と共に若い頃からヘキさんと一緒に呑んで唄ったそうだ。彼女は、宮沢賢治記念館『ポランの広場』で仕事をしていると伺った。聞くところによると、仙台市でハンチング帽を冠った最初の女性だそうだ。
実にチャーミングなお方でしたナ。

僕の座った席の背中の壁には年季の入った仙台四郎の写真が飾られていた。商売の神様として人形を置いている店も多いネ。
創業時から、もう60年近く掛けているそうだが、仙台では店の開店祝いにはお花より仙台四郎の写真の方が喜ばれるらしい。
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そんな仙台四郎を彷彿させる福顔のご主人から大変貴重な資料を拝見させて戴いた。亡き先代の足跡を辿る冊子である。

先代は、高校時代から竹久夢二と文通し、親交を深めていたらしい。
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この写真からも伺えるが、有数の夢二コレクターでもあるそうだ。
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冊子の表紙にも夢二の「夢」の字だね。
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裏表紙は、やっぱりしゃもじだったネ。

東京で炉ばたの店を出した時には、竹久夢二をはじめ、高村光太郎や太宰治、そして若かりし頃の棟方志功などが毎晩の様に呑みに来ていたそうだ。
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当時の『炉ばた』のマッチラベルのデザインをまだ売れてなかった頃の棟方志功に依頼したと云う。
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志功画伯の好物は豆腐だったらしく、大きな奴を二丁むしゃむしゃと平らげた、なんてエピソードを身振り手振りを交えて語ってくれた。
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これは初代の85歳を祝った時の写真だ。

そろそろ〆て貰おうかと思ったら、蕎麦をご馳走するから食べて行ってネ、と女将さんから優しいお言葉。
そして、ご主人が造ってくれたのは打った蕎麦では無く、蕎麦の実その物を使った蕎麦汁だった。
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醤油味のお汁にたっぷりの長ネギと蕎麦の実が入ってる。香ばしい蕎麦の味と香りが口の中に広がるのだ。
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東北郷土料理の素朴ながら深い味わいに『元祖 炉ばた』のまごころが沢山詰まってた。
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        河原の石に降る雨は 
        かなしき歌もうたわずに
        別れし人の泪かよ 
        今日も河原に雨がふる
        遠き思いははてしなく 
        若きうたなどしるしけり
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外に出ると冷たい風が頬にあたり酔いが冷めた。
風に乗って初代店主、天江富弥のうたが聞こえてきたかナ。

温かいおもてなしと素晴らしい酒席での出会いに感謝しながら、次の店へと向かうのであった。うーん、仙台の酒場は深い。
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Commented by スコッチエッグ at 2010-04-09 17:43 x
毎度のコメントになります。
仙台行ってみたいです! 国分町の老舗ロックカフェ ピーターパンの噂は届いているんですが、なかなか機会がなく… 炉端も含めて伺ってみたいです。
Commented by まきんこ at 2010-04-10 15:21 x
なかなかお会いできないと思ったら旅に出てたんですね。
日本酒好きにとってはたまらないお店です。
思いだけは仙台の炉ばたに飛びます。
では、私は代行して田原町に行って来ます!
Commented by cafegent at 2010-04-12 11:42
スコッチエッグさま

毎度コメントありがとうございます。「ピーターパン」、行った事ないですネ。次回是非探訪してきます。気に入った酒場は通う癖が有るので、仙台「炉ばた」はきっと近々再訪するでしょう。
Commented by cafegent at 2010-04-12 11:43
まきんこサマ

コメントありがとうございます。週末はサッカー帰りに会えて良かったデス。まきんこブログ、早く更新してくださいね(笑)
by cafegent | 2010-04-09 17:03 | 飲み歩き | Trackback | Comments(4)