日々是雑文日記/『第9地区』はアタリな秀作B級SFだ!
2010年 04月 15日
朝日新聞夕刊連載のしりあがり寿さんのマンガ『地球防衛家の人々』に笑えた。オトーサンが〈これじゃ三寒四温じゃなくて、百寒百温だ!〉と呟くと、すかさずオカーサンが〈それじゃ、おんなじじゃないか〉とツッコむ。で、オトーサン〈じゃぁ、百寒百一温だネ〉と切り返す。
そう、少しだけだって温かい日が多くなくちゃネ。
三月の三寒四温が四月中旬になっても続くのだから、空の神様に熱燗でも一献差し上げてご機嫌伺いでもしたいものだナ。
こう寒い日には、芝大門に在る薬膳中華料理『味芳斎』の昼飯が良い。ぶっ飛ぶ辛さに躯が芯から暖まるってもんだ。
七十二候で4月15日は「虹始見」と云う。虹、はじめて現る、雨が降り虹が見える時季だ。
さて、東京の空にも虹が架かるといいネ。
桜の名所だった今は無きフェアーモントホテルが作った絵本なのだが、今はもう手に入らない。毎年、桜の季節になると古書店のネット検索で探すのだが、出て来た試しが無い。
その絵本の中にとても素敵なコトバがある。
散ることを知りながら 咲くことを恐れない だから桜が好き
日暮さんはとても穏やかな方で、あごヒゲが印象的だったナ。誰もが知っている「無印良品」は、日暮さんのネーミングだ。
コトバって凄いチカラを持っているよネ。なんとなく、あの絵本をまた見たくなったのだ。
数有るロードショー映画の中で、何を観ようかナと悩む時は愉しい。
ついつい酒の値段と比較してしまうので、数杯の酒を我慢してでも観ておきたい映画を探す訳だ。そして、仕事の合間を縫って空いてる時間帯の映画館に向かうのだナ。
そんな中でSF映画「第9地区」は、予想外の面白さに驚いた。
何て云うか、中古レコード店の棚の中から思わずジャケ買いしたレコードがゴキゲンなサウンドだった時と似た喜びを得た感じだろうか。
困った政府は市内の難民キャンプ地、ディストリクト9(第9地区)に移すのだが、甲殻類の昆虫に似た外観から地上でも人間たちからPrawns「エビ」と呼ばれ差別され始める。Prawnsはスラングで「軽蔑」の意味もあるからネ。
それから可成りの時が経つが、何も起きず宇宙船も空に止まったままの状態が続き、エビたちは繁殖が進みスラムと化した第9地区は白人兵士が我が物顔で彼らを虐め、黒人ギャング達からも差別される。貧困ゆえに街をただ不潔に荒廃させるだけのエイリアンたちに市民の怒りも爆発しそうになり、軍事兵器開発を進める国家政府機関MNUは、エビを新しい第10地区に強制的に移住させるべく立ち退き作業を開始するのだ。
その現場リーダーに任命されたのが、この物語の主人公ヴィカスだ。彼に降り掛かる、次から次と繰り広げられる予想外の展開は、期待と不安が入り交じり興奮する。
アカデミー受賞映画「ハートロック」も手持ちカメラが臨場感を際立たせていたが、本作でも上手く使われてドキュメンタリー効果を高めていた。また、随所に盛り込まれる疑似インタビュー映像も実にクール。
南ア出身のニール・ブロムカンプが監督と脚本を手掛けたが、SF娯楽映画の中にしっかりとした被差別民族の問題提起を盛り込んでいる。街中には「THIS BUILDING For Humans Only」(エイリアン立ち入り禁止)の地区が出て来たり、エイリアンの姿を借りて南アフリカが過去に抱えて来た社会問題を痛烈に風刺しているのが凄い。エビたちが居住する第9地区は、正にアパルトヘイト時代の自治区バントゥースタンを彷彿させる。
この映画は可成りのB級映画だ。爽やかで美しい映像など一度として出て来ない。グロテスクな容姿をしたエイリアンは、やたらとゲロを吐くし立ち小便までする始末。スラム化した街は画面からこっちにまで埃や塵が飛んで来そうな程だ。
それでも、SF映画らしい激しいバトルの場面や徐々に育まれる主人公ヴィカスとエイリアンとの友情の場面など最後まで釘付けになって見入ってしまう秀作映画だ。
日本では、PG12指定(12歳未満は保護者の助言が必要)なのだが、アメリカではR指定(17歳)映画なのだナ。かなりグロなシーンも多いから、子供が見たら途中で泣き出すかもしれない。いや、それより小さな子供ならヨハネスブルグに本当にエイリアンが居ると信じてしまうかもしれない。それほど、リアリティに満ちたSF映画であった。
仕事場の近くでは、一足早く花菖蒲が咲いていた。