東京黄昏酒場/その2.木場平野橋たもとの『河本』
2011年 01月 31日
此処から新木場辺りは、広重の江戸百景にも見られる様に深川の堀割を整備し江戸城の築城に必要な大量の木材を保管する貯木場であった。
木場の名もここから付いた。
今はもう川が埋め立てられて、材木問屋も新木場へと移っている。
江戸から続く川並衆が材木に乗る伝統芸「角乗り」の姿は、かろうじて木場公園で年に何度か観ることが出来る。
石段を降り、暖簾を潜ると真寿美さんの笑顔が迎えてくれるのだ。
『河本』では、殆どの客がホッピーを頼む。すると真寿美さんが手慣れた仕草で厚手のグラスに金宮焼酎をなみなみ盛り切りに注ぐ。それをジョッキに移す時、手首をクィっと曲げて美味い具合に注がれるのだ。
この光景を見るだけでも幸せな気分になれるのだナ。後は栓を抜いたホッピーと共に目の前に置かれるので、自分で注ぐのだ。
最近、何処の酒場でも一本のホッピーで焼酎のナカを何杯かお代わりする方が多くなっているが、此処でそれは禁物だ。「ナカひとつ!」なんて云おうものなら、真寿美さんが「ウチはホッピー屋だから、ナカソトなんて無いんだヨ!」と激が飛ぶ。
高価なビールに替わり、大衆向けにホッピーが生まれたのが昭和23年。河本では、その時からずっとホッピー一筋で営業しているのだ。
冬の間は練炭で温められたおでんも美味い。つけ過ぎの芥子に泪しながら、三杯目のジョッキが空けば、いつしか心も軽くなる。
そして、また幾日かが過ぎると、真寿美さんのホッピーが恋しくなり、暖簾をくぐるのだナ。