東京黄昏酒場/その8.新宿裏路地『三日月』で昭和を吞む。
2011年 10月 25日
並びの『ばるぼら』も古からの名店だが、居酒屋『三日月』の暖簾は、この路地にしっくりと馴染んでいる。
此処の二階で生まれ育った二代目のご主人と奥さん、そして時々下に降りて来るお母さんの三人で切り盛りしている小体の居酒屋だ。ご主人は此処、歌舞伎町生まれの歌舞伎町育ちだ。幼い頃からずっと先代の仕事ぶりを見て育ったのだね。
夏には外に七輪を出し、くさやを焼いている。秋には店の中に入れ、秋刀魚などを焼く。
月見、もずく、莫久来、くさや等々、此処の品書はもう何十年と変わっていない。
昔からの名物のオムレツは、今は亡き作家の田中小実昌氏が「世界一のオムレツ」とエッセイに残している。卵を6、7個とこれでもかと言わんばかりに入れて作る迫力の一品である。
此処の料理はどれもが物凄いボリュームだ。一人だと当然何皿も頼めない程だ。ステーキも度迫力である。お客の年格好で200gとか300gとかを判断して焼いてくれるのだが、その差配が見事なのだ。
また、オールグリンなる一品が有る。その名の通り、総て緑色の野菜の炒めものだ。
先代が早稲田大学の相撲部出身らしく、どの料理も量が凄い。
小体の店だが、二、三人で訪れると店自慢の肴を色々とつまみながら酒を酌み交せる。
秋も深まり、日暮れも早くなった。
今日も変わらず『三日月』の暖簾は、午後五時に下がる。さて、此処で腹を満たして、夜のゴールデン街に消えるとしようか。