こほろぎのこの一徹の貌(かお)を見よ 山口青邨
残暑厳しい日が続いているが、夕暮れあたりから吹く風は秋の匂いが漂い始めたネ。武蔵小山の路地裏でもアオマツムシやカネタタキ、コオロギが鳴く声が響き渡っている。
犬や猫と違って虫の顔の表情など変らないよネ。飼い犬などは飼い主を真似て喜怒哀楽の表情でこちらを向いていることがある。と勝手にこちらが思っているだけなのかもしれないが....(苦笑)
「一徹の貌(かお)」とは、一体どんな顔だろうか。口を一文字にギュッと閉じて目をキッと見開いてこちらを見つめている、そんなコオロギの顔に見えたのだろうか。「オマエサン、ハタラケヨ!」とコオロギに叱咤激動されている様でアル。
毎年九月になると、この青邨の句を思い出すのだナ。
◇ ◇ ◇
閑話休題。
一昨日、東京駅から快速に乗って伊東まで旅に出た。
途中、品川で一旦降りた。120円の入場券を購入し、新幹線の改札へ。駅弁「貝づくし」は、此処でしか買えないのが悔しいのだネ。目当ての駅弁と崎陽軒のシウマイを買い、再び東京駅へ。
駅地下GRANSTA内の『はせがわ酒店』へ。
東京駅ラベルの純米吟醸を戴いた。
キリリとして旨い。お次は、美丈夫のうすにごり。
これ、毎回呑むが実に旨いのだナ。
さぁ、居酒屋グリーンの旅の出発だ。
どうですか、朝からほろ酔いセットですナ。
それにしても、コレ美味い!
上の貝たちで酒を呑み、締めで下の飯を食う。あぁ、幸せな旅となった。
途中、地震が発生し一時電車が止まったが、それほど遅れもせずに熱海に着いた。そのまま伊東線に乗り換えて、伊東駅で下車。
車窓の向こうは土砂降りの雨模様だったが、伊東に着いたら青空が広がっていた。
そして、目指す先はラーメン屋『福みつ』さんだ。
出来湯権現さまの榎の木に手を合わせ旅の無事を祈る。
伊東は湯治場として有名だ。昔、怪我を負った猪が親子でこの地の温泉に浸かり治したことから猪戸の名が付いた。以前、猪戸の温泉旅館の立て直しの仕事をしたっけ。
駅前を右に進み、路地を曲がると『福みつ』の暖簾が見えた。
酒朋キクさんがキープしている寶焼酎の紙パックを抹茶割りで戴いた。
外は時おり雨が降ったり止んだり。
空は青空が見えているのにナァ。
おろしえのき茸とお新香をアテに酒がススむ。
梅干しと冷や奴も出て来た。
此処は黙っていても、厨房のクーちゃんがいろいろと酒の肴を出してくれるから嬉しい限りでアル。
この日は、蜆(しじみ)の炊き込みご飯も出た。
こちらは、イナダの醤油漬け焼きだ。
酒とみりんと醤油のダシに漬け込んであるので酒がススむ一品だ。時おり風が暖簾を揺らし、涼を運んでくれる。
クーちゃんは汗をかきながら、せっせとワンタンやラーメンを作っていたナ。
次々と馴染みの方々が来店し、休むヒマもないのだネ。雨も上がったので、ご馳走様。今回も美味しい肴をありがとうございました。お会計も千円なのだから、本当に申し訳ないのだナ。クーちゃん、感謝多謝!
午後2時に開く公衆浴場へと向かう。
途中、ビルの屋上に鳶(トビ)の姿を見掛けたのでパチリ!
海岸沿いに歩き、源泉掛け流しの銭湯『汐留の湯』へ。
250円で天然温泉に浸かれるのだから、ウレシイのだナ。
窓を開けると伊東の海が一望だ。
初島も眺められるのだヨ。
汗を流しさっぱりしたので、再び駅へ。
熱海に戻り、そこから焼津へと移動した。
途中、静岡方面での貨物列車の故障により、この日二度目の足止めを喰らったが15分程度の遅れで午後5時過ぎに焼津に到着した。
駅を出ると小雨がぱらついたが傘をさす程でも無かった。駅前通りを進み一路目指す酒場へと歩いた。
『寿屋酒店』の暖簾と赤提灯が出ていた。ご主人も元気そうで何よりだった。
以前、お伺いした際に「いつまで店を開けていられるか判らないから」と云われたのだが、電話で確認して良かった。「水曜日は休もうかと思ったが、東京から来るのだったら開けるネ」と!嬉しかったなぁ。
此処に来たら、旧式のビアサーバーから注ぐ極上の生ビールを戴かなくちゃ!
今のサーバーと違って後ろにレバーを押して泡を出す仕組みが無い装置なので、ゆっくり、ゆっくり5分から10分近くも時間をかけてクリーミーな泡を作るのだナ。
冷え過ぎず絶妙な温度の生ビールはわざわざ遠くから来る価値が有るってもんだ。
クゥッ、旨い!
程よく脂の乗った相良の鯵が有ると云うので、刺身にして戴いた。
ふぅ、生ビールがスグに空くナァ。
二杯目をお願いした。
ご主人は平成元年に父親から『寿屋酒店』を受け継いだそうだ。それまでは、普通の会社員だったと伺った。それでも子供の頃からこの地で育ったので、魚を選ぶ目利きと捌き方は板に付いていたそうだ。
前回も美味しいカツオを戴いたものナ。
今回は北海道から生の秋刀魚が届いたとのことで焼いて貰った。
心地良い風が吹く外に七輪を出して新秋刀魚を焼いてくれた。
パチパチと鳴る炭の音が良いBGMとなる。
ビールから酒に切り替えて香ばしく焼けた新秋刀魚を戴いた。
暫くすると、東京から仕事で来た方を連れて来たと云う人たちが来店。僕の秋刀魚を見て、早々に頼んでいましたネ。
御主人のお姉さんが二人の生ビールをじっくりと注いでいたナ。
二本目の徳利が空いて、良い時間になった。午後7時を前にご馳走様。
美味しい酒と魚、ありがとうございました。また来ます、とご挨拶をして焼津駅へ。秋の虫がすだく中、心地良い酔いを保ちながら駅へ。
熱海からは再び居酒屋グリーンの旅となった。
今回は本を持参したので、寝落ちせず無事に品川で降りた。
そんな大満足な平日の休みであった。