東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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日々ヘベレケ日記/小雨降る秋の東京ハシゴ酒!

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     ほろほろ酔うて木の葉ふる   山頭火

暦ではもう「晩秋」となったのだネ。十月十一日は「一草忌」だった。

俳人、種田山頭火の命日でアル。今年に入ってから、仕事の関係で全国を旅しているのだが、旅先の宿で酒を酌みながら山頭火の句を思い出したりすることがある。一人旅の場合、時折ふと寂しさが訪れるのだナ。酒の一合二合の内は好いのだが、それ以上になると途端に酔いが廻り、無性に人恋しくなるのだ。
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大酒飲みの山頭火もまた、酒で気を紛らわさずにはいられない程の寂しがり屋だったらしいネ。放浪の旅を続けながら多くの句を詠んだ山頭火は松山の「一草庵」で晩年を過ごした。そして75年前、昭和15年のこの日、句会を開いていた時に脳溢血で亡くなった。

そう云えば、今年の夏に長崎の漁師町「平戸」へと旅をした。
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高倉健さんが主演した映画「あなたへ」の舞台となったところだ。
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小さな町なので、一日のんびりと歩けば映画の舞台になった場所を訪れる事が出来た。
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妻を病気で亡くした富山刑務所の木工指導技官の主人公が生前妻が書いた手紙を受取り、彼女の故郷である平戸の海に遺骨を撒いて欲しいと知る。そして、妻と二人で旅をしようと手作りしたキャンピングカーで一人平戸を目指して旅に出るのだネ。

一人旅を続ける中、ビートたけし氏が演ずる旅の途中で出逢う男が「旅と放浪の違いが、わかりますか?」と訪ねるのだナ。
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この時に男が種田山頭火の句集を取り出して、「帰る処があるのが旅、帰る処がないのが放浪なんだよ」と言うのだ。そして「旅のお伴に」と書き置きを残して、句集『草木塔』を置いていったのだ。
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平戸までの旅の途中、幾人かと出逢い、酒を酌み交わし、漸く辿り着いた港町でまた人と出会う。そして迷っていた心が晴れて、妻に別れを告げることが出来た。
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一度は「放浪」しかけた主人公だが、この数日間の中でこの先の人生の「旅」が見えたのだろうナ。
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先日、テレビで偶然にも再び映画『あなたへ』を観た。
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夏に訪れた平戸の風景を思い出しながら映画に魅入ったが、今度の旅には僕も山頭火の句集を携えて出掛けようかナ。
      ◇            ◇            ◇
閑話休題。

さて、夕べは久しぶりに神楽坂まで出掛けた。飯田橋の駅を出て坂を昇る。小雨がまだ降っていたので、夕暮れの神楽坂に色鮮やかな傘が行き交っていた。
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毘沙門天の前を右に折れる。

石畳の路地にひっそりと『伊勢藤』のあかりが灯っていた。
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戸を開き中へ入ると、まだ囲炉裏の前が空いていた。座敷近くの角席に腰を降ろし、温かいおしぼりで顔を拭う。

此処は日本酒、しかも白鷹一種類のみと実に潔い酒場でアル。長年の燗付け用の炭火に燻されたのか、黒光りした板の壁も実に味がある。

酒は燗酒か冷や(常温)で出される。夕べはグッと気温が下がったので、熱燗をお願いした。

此処は黙っていても三菜一汁が出て来るので、悩まないのが好い。野毛の『武蔵屋』、恵比寿の『さいき』も同様だナ。この日の肴はイカの塩辛、小ぶりのざる蕎麦、じゃこと蓮根のきんぴら、そして豆腐の味噌汁が出た。

おぉ、燗酒が五臓六腑に沁みわたる。四角い柾目板に乗った丸い徳利が手に優しいのだナ。此処の盃は、盃台の上に鎮座する。茶釜型の盃台は、きっと酔い防止かもしれない。しっかりしていないと、ちゃんと置けないからネ。

この酒場に来ると自然に背筋が伸びるのだ。時を重ねる度に、自分が随分と大人になったのだナァ、と改めさせられる。此処は大声で話をすると店主から注意される。小声で話す分には何もお咎(とが)めは無い。僕も昔は注意されたっけ。

此処は「静寂」と向き合いながら独り酒を愉しみたくなる不思議な酒場でアル。時折、外の小路から聞こえる人々のざわめきも虫の集(すだ)く声も心地良く酒場の中に響く。

作務衣を纏った店主が、丁寧に酒をつける姿や銅製の燗付け器が埋まった灰をならす姿を眺めているだけで、こちらまで凛としてくるのだ。三菜とは別にお願いした「くさや」が焼き上がった。くさやの独特の臭みは、本当に日本酒に合うのだネ。

三杯目の酒をお願いすると乾いた納豆の小皿が出る。これもまた実に美味く、酒がススむススむ。

小上がりに居た若いカップルは写真撮影を注意されたからか、酒一杯で早々に帰っていった。入れ違いに入って来たのも若い二人だった。「生ビールお願いします」って言う姿が実に清々しく、店主も優しく「日本酒一種類しかないんですヨ」と応えてたナ。初めて此処を訪れた時は誰だって同じだ。そして、此処が居心地良く感じてくれて、何度か通うようになれば自然にこの酒場の愉しみ方を覚えて行く。

さぁ、三杯目の酒を呑み干した。ご馳走さまでした。会計を済ませ、外へ出ると雨も小降りになっていた。

地下鉄東西線で竹橋へと出よう。神保町の酒場『兵六』に向うには、竹橋で降りれば遠くない。

三省堂書店の裏通りに入ると大きな『兵六』の提灯が見える。
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此処は「静寂」とは無縁の酒場だが、皆が凛として酒を愉しんでいる。『伊勢藤』が日本酒の酒場ならば、此処『兵六』は焼酎の酒場だ。薩摩出身の初代店主は、六十余年前のまだ関東で芋焼酎など馴染みが薄い時代から薩摩焼酎を売りにしていたのだネ。故に日本酒は美少年の二級酒のみ。この潔(いさぎよ)さもまた素晴らしい。
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こちらでは、我が酒朋たちが集っていたナ。
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さつま無双の白湯割りを戴き、再び躯を温める。

窓の向こうからは、僅かだが金木犀の香りが漂っていた。
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深まる秋をもう少し感じながら友たちと酒を酌み交わすとしよう。
by cafegent | 2014-10-16 19:04 | 飲み歩き