日々ヘベレケ日記/小雨降る秋の東京ハシゴ酒!
2014年 10月 16日
暦ではもう「晩秋」となったのだネ。十月十一日は「一草忌」だった。
俳人、種田山頭火の命日でアル。今年に入ってから、仕事の関係で全国を旅しているのだが、旅先の宿で酒を酌みながら山頭火の句を思い出したりすることがある。一人旅の場合、時折ふと寂しさが訪れるのだナ。酒の一合二合の内は好いのだが、それ以上になると途端に酔いが廻り、無性に人恋しくなるのだ。
そう云えば、今年の夏に長崎の漁師町「平戸」へと旅をした。
一人旅を続ける中、ビートたけし氏が演ずる旅の途中で出逢う男が「旅と放浪の違いが、わかりますか?」と訪ねるのだナ。
◇ ◇ ◇
閑話休題。
さて、夕べは久しぶりに神楽坂まで出掛けた。飯田橋の駅を出て坂を昇る。小雨がまだ降っていたので、夕暮れの神楽坂に色鮮やかな傘が行き交っていた。
石畳の路地にひっそりと『伊勢藤』のあかりが灯っていた。
此処は日本酒、しかも白鷹一種類のみと実に潔い酒場でアル。長年の燗付け用の炭火に燻されたのか、黒光りした板の壁も実に味がある。
酒は燗酒か冷や(常温)で出される。夕べはグッと気温が下がったので、熱燗をお願いした。
此処は黙っていても三菜一汁が出て来るので、悩まないのが好い。野毛の『武蔵屋』、恵比寿の『さいき』も同様だナ。この日の肴はイカの塩辛、小ぶりのざる蕎麦、じゃこと蓮根のきんぴら、そして豆腐の味噌汁が出た。
おぉ、燗酒が五臓六腑に沁みわたる。四角い柾目板に乗った丸い徳利が手に優しいのだナ。此処の盃は、盃台の上に鎮座する。茶釜型の盃台は、きっと酔い防止かもしれない。しっかりしていないと、ちゃんと置けないからネ。
この酒場に来ると自然に背筋が伸びるのだ。時を重ねる度に、自分が随分と大人になったのだナァ、と改めさせられる。此処は大声で話をすると店主から注意される。小声で話す分には何もお咎(とが)めは無い。僕も昔は注意されたっけ。
此処は「静寂」と向き合いながら独り酒を愉しみたくなる不思議な酒場でアル。時折、外の小路から聞こえる人々のざわめきも虫の集(すだ)く声も心地良く酒場の中に響く。
作務衣を纏った店主が、丁寧に酒をつける姿や銅製の燗付け器が埋まった灰をならす姿を眺めているだけで、こちらまで凛としてくるのだ。三菜とは別にお願いした「くさや」が焼き上がった。くさやの独特の臭みは、本当に日本酒に合うのだネ。
三杯目の酒をお願いすると乾いた納豆の小皿が出る。これもまた実に美味く、酒がススむススむ。
小上がりに居た若いカップルは写真撮影を注意されたからか、酒一杯で早々に帰っていった。入れ違いに入って来たのも若い二人だった。「生ビールお願いします」って言う姿が実に清々しく、店主も優しく「日本酒一種類しかないんですヨ」と応えてたナ。初めて此処を訪れた時は誰だって同じだ。そして、此処が居心地良く感じてくれて、何度か通うようになれば自然にこの酒場の愉しみ方を覚えて行く。
さぁ、三杯目の酒を呑み干した。ご馳走さまでした。会計を済ませ、外へ出ると雨も小降りになっていた。
地下鉄東西線で竹橋へと出よう。神保町の酒場『兵六』に向うには、竹橋で降りれば遠くない。
三省堂書店の裏通りに入ると大きな『兵六』の提灯が見える。
窓の向こうからは、僅かだが金木犀の香りが漂っていた。