東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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日々ヘベレケ日記/武蔵小山の名酒場『佐一』で憩う。

再開発が進む武蔵小山は駅を降りるとスグ目の前に広大なタワーマンションの建設現場が広がっている。其処には、かつての面影など微塵もない。と言っても、1年半ほど前まではスナックや小料理屋、居酒屋が数十店舗も軒を連ねる飲食店街「りゅえる」が在った。細い路地が縦横に並び、まるで迷路の中をぐるぐると歩き回って二軒目、三軒目の酒場を探したものだ。

馴染みの酒場が幾つも閉店したり、違う街へと移転したりしたが、近くに好い場所を見つけた店も有り、その営業再開は僕ら地元連中にとっては何よりの「嬉しい知らせ」だった。

昔の場所から通りを二つほど奥に遠ざかったが、幾つか飲食店が並ぶ路面店として復活したのが『佐一』だ。その店構えはモダンな和食店のようで、ちょっと敷居が高そうかナと思ってしまうが、戸を開けると仲睦まじいご夫婦の笑顔が優しく迎えてくれて、感じていた空気が一瞬で払拭する筈だ。もちろん、居心地の良い空気感のみならず、抜群の酒肴の美味しさとリーズナブルな価格もこの店の敷居が低いことを納得して戴けることだろう。

L字型のカウンター席のみの小体の居酒屋は、いつも馴染みの顔が集っており、誰もが良い顔をして酒を愉しんでいる。
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大将のユキさんは太い眉と優しい目が印象的で昔の映画俳優のような二枚目で、女将のユミさんも目鼻立ちがはっきりとして凛とした美しさを醸し出している。そう、二人とも実に素敵で華が有るのだナ。
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以前は寿司屋を営んでいたので、大将の仕入れる魚介類は素晴らしい。その魚たちをそれぞれ一番美味しく味わえるように料理してくれるのだ。

「はい、小肌だよ」

何度か通っていると僕の好みなども覚えていてくれて、黙っていても好きな肴を出してくれるのも嬉しい心遣いなのだ。

大将の料理を引き立てるのが、酒の仕入れを受け持っている女将さんの目利きだ。
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ユミさん、実はお酒は殆んど呑まないそうだ。だが、長年の仕入れ経験や全国の酒の情報収集などから、その時一番呑んで貰いたいと思う酒を仕入れている。そして、ユキさんが造る肴に合う酒を選んでススめてくれるのだナ。

この日もお任せで刺身の盛り合わせをお願いした。
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むふふ、好物の小肌やタコを忘れずに入れてくれたし、身がキュッと締まったコチや新鮮なイカのワタも好い酒の肴となった。
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辛口の酒「日高見」も濃厚なワタを絡めたイカの旨味にピッタリだ。

カウンターの向こうから何とも言えぬ良い香りが漂ってきた。大将が何かを蒸し焼きにしているのだナ。その香りがどんどんと強くなり、僕の鼻腔を刺激した。と、その時振り返った大将が、スッと皿をカウンターの上に置いたのだ。熱々のアルミフォイルを開くと松茸の馥郁(ふくいく)たる香気が、完全に僕を虜にしてしまった。
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おぉ、早松(さまつ)だネ。梅雨の時季に季節を早とちりして地上に現れる松茸で、市場ではなかなかお目にかかれない。

香ばしく七輪で焼かれた松茸には燗酒が合うが、ふっくらと蒸されたコイツには冷酒だネ。合わせた酒は東京の地酒、澤乃井の純米吟醸酒「東京蔵人」だ。
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爽やかな酸味が松茸の香りを邪魔することなくスーッと喉を流れいてく。これぞ「生酛造り」の酒の美味さだナ。

箸休め代わりに糠漬けをお願いした。暑い真夏にバテぬように発酵食も欠かせないネ。
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蕪、きゅうり、人参、茗荷にセロリ、どれも好い塩梅で漬かっている。これも酒がススむススむ。

お次にユミさんが出してくれたのは、栃木の宇都宮酒造が造る「四季桜」だ。
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トロッとした口当たりで芳醇な旨味が口いっぱいに広がってくる。あぁ、旨い、幸せなひとときだ。強い糠漬けの乳酸菌を酒の旨味が包み込み渾然一体となって僕の味覚を覚醒させていった。

もう一つ、僕の好物は此処の「なめろう」だ。これは結構手間がかかるので早めにお願いした方が良いかもしれないネ。丁寧に包丁で叩いたなめろうは海苔に巻いて食べる。
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鯵の旨味が凝縮されて、これまた酒がススむ一品だヨ。鯵が無い時もあるが、そんな時も別の魚で作ってくれたりするので、酒好きならば是非頼んでみて欲しいのだナ。

「佐一」は元々、牛すじ煮込みともつ煮込みが評判の、古くから続く地元の名酒場だった。ユキさんとユミさんは長い間、西五反田の桐ヶ谷斎場通りでお寿司屋さんを営んでいたのだが、2010年に地元に戻り二代目を注いで居酒屋「佐一」の看板を守ることにしたのだネ。
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場所こそ変わったが、親から引き継いだ煮込みの味は今も変わらない。そして鮨職人として培った料理人の技を惜しむことなく、この居酒屋で安価で提供されるのだ。

よし、〆に何か握って貰おうか。品書きには載っていないが、大将にお願いすれば鮨も握って戴けるのだヨ。僕は小肌やヒラメの昆布締めなどが好きだが、旬の時季のシンコも堪らない。

この日は簀(す)巻きがいいナァ、と告げると、ユキさんは黙って巻き簀を出して海苔を置いた。サァ、何が出てくるか楽しみだ。

「はい、どうぞ!」

登場したのは、ネギトロ巻だった。
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脂の乗ったマグロが口の中で溶けていく。酢飯をしっかりと食べたので、深か酔いもせずに家路に着くことが出来た。

武蔵小山には、まだまだたくさんの名酒場が在るが、此処『佐一』はきっと皆さんの期待に応えてくれる一軒となるだろうと思っている。

そして、僕だってまだまだ知らない店も多いので、皆さんが訪れてみて気に入ったところが有れば、是非とも教えて欲しいのだナ。

では、また! CHAO!
by cafegent | 2017-07-28 13:31 | 飲み歩き