東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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夏の風物詩、入谷の朝顔市から馴染みの酒場へ!

「恐れ入谷の鬼子母神、びっくり下谷の広徳寺、そうで有馬の水天宮・・・」フーテンの寅さんじゃないが、江戸っ子はこんな駄洒落が好きなんだナ。
毎年、七夕の季節になると台東区下谷に在る入谷鬼子母神の境内とその門前周辺の大通り両脇に沢山の朝顔売りが軒を連ねる。
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朝顔の店に並んで、屋台も沢山出店しているのだナ。
7月の6日から8日までの三日間なので、その年によって曜日が変わる。今年は土・日・月だったので、月曜の夕方に朝顔市を訪れた。僕はプライベートや仕事でお世話になった方々へのお礼とお中元を兼ねて、手頃な朝顔の鉢を贈っている。朝顔市に並ぶ鉢も年々多種多様になっている。
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僕は大輪の「団十郎」が好きなのだが、白い花の「平安の香り」や朝焼けの空の色をした「暁の海」なんて品種も有る。贈る相手の顔を思い浮かべながら選ぶのも、此処に来る楽しみのひとつなのでアル。


今回も8件の方に贈るため、宅配便の伝票に宛先を書いた。総てを書き終えたら、鬼子母神へお参りだ。

元は、とある大名の奥女中にできたおできを此処、真源寺の願掛け参りで完治したことから「恐れ入谷の鬼子母神」と言われるようになったとか、ハテ?

まだ日が暮れ泥(なず)む午後5時、言問(こととい)通りを鬼子母神から根岸一丁目交差点まで戻り鶯谷駅下へと進む。
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ここ数年、朝顔市の日は梅雨の雨降りが多かったが、この日は気持ちの良い青空が広がった。
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立ち飲み『晩杯屋』の先を右に折れ、スグの路地を左に曲がると目指す酒場が在る。
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紺色で『鍵屋』と染め抜かれた夏仕様の白い暖簾が七月の風に揺れている。打ち水をした玄関の軒下には夕涼み用の縁台が涼を運んで来てくれるようだ。


暖簾を潜ると先客が数人¬型のカウンターで酒を酌んでいる。

奥に粋な浴衣姿の二人連れが居り、その隣へと腰を下ろした。

主人の賢太郎さんに桜正宗のぬる燗をお願いする。此処に来ると僕は一年中、桜のぬる燗だ。

鍵屋には数種類の大きさのお猪口が用意されている。小さな盃でちびりちびりとやるのが好きな御仁もいれば、グイッとぐい飲みする奴も居る。そして、賢太郎さんは僕が座ると迷わず一番大きな蛇の目入りの盃を差し出してくるのだナ。これだと二度ほど酒を注げば、もうお代りだ。

この日のお通しは煮豆だった。夏の季節は、煮こごりや心太(ところてん)なども出るので、毎回何だ出てくるかも楽しみでアル。
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煮豆を肴に酒を呑むってのが、東京の酒場の在るべき姿だと思っている。

此処は今を遡ること163年前の安政3年(1856年)に創業した江戸の酒場だ。但し、今の建物は今から45年ぐらい前に言問(こととい)通りの道路拡張に伴い取り壊しの危機に遭った創業時の家屋に替わり、探したそうだ。だが、創業から残る建物は東京都が管理する「江戸東京たてもの園」に完全な形で移築保存されているので、今も見学することが出来るのだナ。

それでも、今の建屋も大正元年に建てられたと言うから、多くの歴史を見てきたことだろうネ。

この日、僕が選んだ酒の肴は、味噌おでんだ。豆腐とこんにゃく、ちくわぶに甘い田楽味噌が乗っている。

ちくわぶってのも東京の居酒屋らしくて好きなのだ。店主が自ら串打ちをする鰻のくりから焼きも旨い。冬場の煮やっこも酒がススむ。


この日、お隣で呑んでいた二人は粋な浴衣姿で酒を愉しんでいた。ハテ、何処かでお見かけした顔なのだが、思い出せずにいた。浴衣の話から酒の話になり、他愛のない話題で盛り上がっていたら、何度かお邪魔したことのある浅草見番近くの酒場の主人(あるじ)だと判った。

なんだ、もっと早く言っておくれよ、と思いながらも思い出せない爺ぃの僕が恥ずかしい。

素敵なお連れさんに酒までお酌して戴いた。あぁ、手酌酒の何十倍も旨いネ。


愉しいひとときは酒もススむススむ。桜政宗のぬる燗を4本空けたところで、心地よく酔いも回ってきた。よし、梅雨の合間に太陽が覗いたら僕も浴衣で出かけよう。

賢太郎さん、女将さん、ご馳走様でした。

外に置いた朝顔を忘れずに持ち帰らないとナ。今だに「お兄さん、どう?」と年齢不詳のレディからの誘い声を尻目に、鶯谷のホテル街をスルリと抜けて駅へと向かった。

入谷の朝顔市が終わると、翌日から浅草の鬼灯(ほおずき)市が始まるのだ。晴れてくれたら、浴衣に雪駄で出かけようかナ。




by cafegent | 2019-07-19 17:36 | 飲み歩き