旅は玄関の扉を開けた時から始まる。スズメたちが集い駅へと向かう道の上の電線で鳴き交わしている。この日は熱海から伊東方面へと海沿いを旅するので、足元は先日小田原の『マツシタ靴店』で手に入れたギョサンだ。
有人改札に向かい駅員さんに日付入りの印を押してもらう。通勤途中の人たちに混じり、暫し満員の山手線に揺られよう。品川駅で東海道線に乗り換えた。この日最初に目指すのは品川から一駅目の川崎だ。朝8時20分、川崎に到着すると酒朋のワタベ君が待っていた。東口の階段を降り、左手へと歩く。そして8時半口開けの食堂『丸大ホール』の暖簾が掛かるのを待つのだ。長い暖簾が外に掛かり「さぁ、どうぞ」の声に誘(いざな)われ、僕らは中へと吸い込まれる。奥から二つ目のテーブルに腰を下ろし、焼酎の緑茶割りをお願いした。壁に掛かる細長い短冊から酒の肴を探すのだ。そして先ずはハムエッグを注文。
此処のハムエッグは2枚のハムに半熟の両目、それにポテトサラダと千切りキャベツが盛られている。
開店から数分で各テーブルにご常連さんたちが座り始める。
二杯目はシークァーサー割りをお願いした。ワタベ君は二品目を何にしようか悩んでいる。そして、450円の肉野菜炒めをやめて400円の野菜炒めを注文した。
町中華の店でいつも思うのだが、普通の野菜炒めを頼んでも必ず豚肉のコマ切れは入っているよネ。なので、僕はいつも普通の野菜炒めにするのだナ。
丸大ホールの野菜炒めは、二人で十分過ぎるぐらいのボリュームだ。
これで400円は嬉しい限りでアル。6人連れの若い男女がワクワクした素振りで店の扉を開けて入ってきた。彼らも夏休みの最後を朝から食堂呑みで楽しむ予定なのだろうネ。
朝のモーニングを済ませ、僕らは再び川崎駅へと戻った。ホームに降りて熱海までのグリーン券情報をスイカへと記録する。特急踊り子号を見送り、熱海行きの快速アクティに乗り込んだ。平日なのでなんとか二人席へと座ることが出来た。土日や祭日だとグリーン券を購入したのにグリーン車に座れない人も出ることがあるからネ。
さぁ、いざ居酒屋グリーンの旅の始まりだ!
ちょっとした旅でも僕はグラスやお猪口を持参する。これだけで、車中の呑み旅の愉しさが、グンと倍増するのだナ。
駅で仕入れた崎陽軒のポケットシウマイを酒のつまみに戴こう。芥子をシウマイにチョイチョイと乗せて醤油を垂らす。シウマイはこのサイズがちょうど良い。横浜を過ぎ、大船、茅ヶ崎と進んで行くと車窓の向こうの景色も変わっていく。
高いビル群が少なくなり、緑が多くなっていく。そして列車は小田原を過ぎ、真鶴、湯河原と青い海を眺めながら終点熱海へと到着だ。
この日は名残の夏を楽しんでくれと言わんばかりに9月の太陽が眩しい。平日でも熱海は賑わっている。僕らは駅前に在る足湯へと向かった。足を湯に浸かるだけなのに、なんでこんなに気持ちが良いのだろうか?頭寒足熱と云うが、日差しが強いから頭も暑かったネ。駅前のアーケードを散策し、温泉まんじゅうをつまみに缶ビールを開ける。あぁ、極楽ゴクラク。再び熱海駅へと戻り、JR伊東線へ乗るのだ。この列車は下田方面へと向かう伊豆急行なのだが、伊東まではJRなので、鈍行に揺られのんびりと青春18きっぷで行けるのでアル。熱海とは打って変わって駅前の人は少なかったが、この辺りは週末が賑わうのだろうか。川沿いの東海館で温泉に浸かろうと思ったら、平日は館内見学のみとのことだった。残念!そんな訳で、早々に馴染みの店に顔を出すことにした。毎回、青春19きっぷを使い伊東に足を運ぶ目当ては、ラーメン屋の『福みつ』だ。此処は美味しいラーメンと餃子を出す店だが、いつもご常連さんが朝から酒を愉しんでいる。『福みつ』は漁港が近いから、早朝から仕事を終えた海の男衆や奥さんたちが仕事の後の憩いを楽しんでいるのだ。毎回カラになると入れて帰るキープボトルならぬキープ紙パックの宝焼酎ピュアを奥から出してきて、抹茶割りにして戴く。この日は昼を廻っていたので、昼食に来たカップルなども居て混んでいたが、何とかワタベ君と二人座ることが出来た。さぁ、改めて旅に乾杯!ぬか漬けをつまみに焼酎を呑んでいるとみんなから「クーちゃん」と呼ばれて愛されている久美子さんが仕込み終えたキンメの煮付けを出してくれた。『福みつ』では、ボトルさえ入れていれば、あとは何も注文する必要がない。クーちゃんがその日に仕入れた食材を工夫して様々な酒の肴を出してくれるのだナ。お次は分厚いハムステーキの登場だ。あぁ、酒がススむススむ。この日は横浜で仕事を終えた酒朋Kちゃんが特急踊り子号に乗って伊東まで来てくれたので、『福みつ』で合流となった。
クーちゃんお手製の唐揚げも酒に合う。午後3時を過ぎ、ご馳走さま!海岸沿いを歩き、程よい酔いをさます。この日は本当に真夏が戻ったような暑さになった。少し歩いただけでも肌が焼けたほどだったナ。酔いもさめたので、僕ら三人は海沿いに在る源泉掛け流しの温泉『汐留の湯』に向かった。此処は湯川第3浴場という公衆浴場で地元の方々が毎日利用している。湯船が真ん中にありそれを囲むように洗い場が有るのだ。少し熱めの湯にじっくりと浸かり、冷たい水を浴びる。これを三回繰り返しリフレッシュだ。サ道で云うところの「整う」ってワケだ。こうして、男三人伊東の旅を終えた。伊東から熱海までの車中、ビールで温泉後の体を冷やす。天井の扇風機が心地よい風を運んでくれていたナ。再び熱海駅まで戻り、東海道線に乗り換えた。さぁ、お次は小田原で降りて酒場へと向かおうか。