東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent
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「こんな夢を見た。」が、しかし夢じゃない幸せなのだ。

「こんな夢を見た。」で、始まる夏目漱石の『夢十夜』が10人の個性的な監督によって『ユメ十夜』なる映画になった。「ウルトラマン」でお馴染みの実相寺昭雄、巨匠・市川崑、大人計画の松尾スズキ、ホラーの奇才・清水崇、「リンダ リンダ リンダ」の山下敦弘、等々かなり個人的に好きな監督が参加している。
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僕はこの漱石が41歳の時に発表した短編小説が好きなのだが、不条理な夢の世界をよくぞここまで映像化したもんだ。と思ったが、よくよく考えれば夢なんだから何でもアリなのだ。夢につじつまなんて無いのだ。夢の中で無理矢理繋がっている訳だ。
自分でもかなり不可解で不条理な夢を良く見るが、眠っている間は、そのでたらめな世界がちゃんとつじつまが合って繋がっているから不思議だね。これをノートに記すなんてコトもした事はないが、漱石は実際に見た夢を記したのだろうか。それとも原稿用紙の前で浮かんだ10篇なんだろうか。
この映画、監督も凄いが、キャストも豪勢。小泉今日子、松尾スズキ、うじきつよし、中村梅之助、山本耕史、市川実日子、阿部サダヲ、石原良純、秀島史香、藤岡 弘、、緒川たまき、ピエール瀧、松山ケンイチ、本上まなみ、石坂浩二等々蒼々たる面々が出演している。第一夜を撮った実相寺監督と脚本の久世光彦はこの映画が遺作となってしまった、合掌。

先週末、久しぶりに祐天寺にある馴染みの寿司屋『鮨 たなべ』に行ってきた。昨年、何度か電話を入れたが繋がらなかったので、もしや閉店したかな、と勝手に思っていたのだが、「もつ焼き ばん」の帰りにたなべの場所に行ってみたら、いつも通り開いていたのだ。そんな訳で、また美味い飯と酒を楽しんできた訳なのだ。大将に聞いたら、昨年電話の調子が悪くて工事していて繋がらなかった時期があって、何人かの客にも同じ事を云われたらしい。そうだろう、僕だけじゃなかったんだよ。まずはビールで連れを待つことにした。昨年、この店の近くにマンションを買った友人は、僕が長年していた「たなべ」話に期待が膨らみ、ようやく実現した次第である。先日、ブタドクロと行った店で「寿司屋の所作がなってない」と云う話をしたが、たなべは大将の田辺さんも若い職人も実に気持ちの良い所作なのである。カウンターに座った瞬間から幸せなひとときが味わえるのが、良い店なのだ。そう云う意味でも、ここは良い店だ。
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『鮨 たなべ』は、基本的に座れば黙ってどんどん出してくれるおまかせなのだが、最初に苦手なモノ、嫌いなモノを聞いてくれるので安心して食べれるのだが、かなり腹を空かしていかないと大食漢の僕でさえ苦しくなってくる程種類豊富に料理が出て来る。小さなお猪口くらいの小皿で次から次と出されるのだ。小皿のオンパレードがひとしきり終わると、ようやく握りとなるのである。日本酒も全国の美味しい酒を選りすぐって用意しているのだが、お任せにすれば、盃が空になると次々と違う銘柄を注いでくれるのである。もちろん、気に入った酒があれば、ずっとそれを飲むのも良し、なのだ。以前、ここで呑んだ発泡の濁り酒も美味かったっけ。

さて、この日はまず「ピーナッツ豆腐」と「岩海苔」が小皿で登場。
食べ終わった後にほんのりとピーナッツが香ばしく残ってビールに合うのだ。
「たなべ」では、どんどんと小皿が出てくるので、食べ終わったらカウンターの上に乗せる。そうすると次の料理を用意してくれるのだ。酒もしかりで、空いた猪口を上に乗せれば、大将がなみなみと新しい酒を注いでくれる。
3品目の「白身と蟹と三つ葉、ぎんなんの葛湯仕立て」に合わせて、冷酒に切り替えた。まずは、秋田・六郷の「春霞」を注いでくれた。熱々の葛に冷酒が合うのだ。
4品目に「蟹爪とかに味噌和え」が出され、続いて「白魚のおどり」が登場。
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グラスの中の活きしらうおに酢醤油をかけると今にも飛び出さんとするくらいに勢いよく踊るのだ。
これ、このまま噛まずに飲み込むと生きた白魚が胃を内側から喰いちぎり内蔵を栄養としてお腹の中で大きく育つそうだから、しっかり噛んで食べなくちゃぁ駄目なのだ。(ウソです、はい。)

次に脂のたっぷり乗った富山は「氷見の寒ブリ」を刺身で出してくれた。とても甘くて、口の中で溶けていくこの季節のブリは大間のトロに匹敵するくらいに美味い。そして「岡山産のたいら貝」。分厚い貝柱の刺身にレモンと塩でシンプルに食すのだが、一緒に添えてくれた梅和えを少し乗せて食べると、これまた絶妙。冷酒が進む進む。今度は新潟、越後魚沼の地酒「高千代」。これは、まろやかで呑み易い酒だ。
これに合わせて、福島は、いわき市「小名浜のめひかり」を焼いてくれた。
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深海魚のめひかりは小さな魚ながら、その身はほっこりとしており、脂が乗って実に上品。頭から丸ごといってしまうのだ。んー美味い。

次は「のれそれ」が登場。
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のれそれとは、穴子の稚魚。紅葉おろしと刻んだ青ネギをのせて酢醤油で。うぅ、ここの紅葉おろし、かなり辛い。舌がヒリヒリしてきた。
そして、さっきの「ブリのアラ煮」が登場。この時期のブリはどう料理しても美味しいねぇ。
と、今度は北海道、「厚岸の生牡蛎」の登場。
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これ、何もつけずこのままが一番美味い。
今度の地酒は金沢の純米酒「加賀鳶」をトクトクと。これ辛口でイケるっ、やっぱり冬の魚介には北国の地酒が良く合うんだなぁ。

続けて、「子持ち槍いかご飯」が出てきた。
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小皿の料理だと思っていい気になっているとこのボリュームにやられるのである。おーし、気合いを入れ直して喰うぞ。箸休めに「わさびの茎」を出してくれた。甘く煮たイカ飯にガツンと鼻をツく山葵の茎の千切りは効くなぁ。泪出てきた。

次に出されたのは、「淡路産真あじの自家製干物」。
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小ぶりながらもふっくらとしていて酒の肴にぴったしだ。
そして、ここの名物「鮟肝の飛び卵和え」の登場。
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アン肝の濃厚な味わいと飛びっこのプチプチ感がなんとも云えずマッチして、美味いのである。小皿も大詰めになってきたところで、「能登産赤なまこ」が出される。なまこってこんなにウマかったの?って云うくらい美味いんです。
で、最後に「バラちらしの小どんぶり」で小皿料理の〆となる。
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これも小さいながら10数種のタネが仕込まれているたなべの名物だ。
冷酒もこのへんにしとこうと思ったが、「新潟の北雪が美味いよ」との誘惑に負けてしまった。純米の「北雪」はキリっとした辛口で、次の握りにも良く合いそうだ。

さて、ようやく握りの出番である。が、かなり呑んだし、お腹もふくれた。握りは少しにしておこう、と思ったのもつかの間結局いろいろ食べたのだった。まずはトロ、次にマグロの漬け。
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この、かわはぎの肝乗せの握りも美味い。そして墨イカと槍イカの食べ比べをして、小肌を食す。さっぱりした後はすこし濃厚な味が欲しくなるのだ。なので、最後に北海道は厚岸産の氷温熟成生ウニを握ってもらい〆となった。

いやぁ、喰った喰った。これだけ喰って呑んだら、幸せこの上なしなのだ。この日は、金正日の誕生日、総書記はもっとゴージャスで沢山の美女をはべらせて呑めや歌えの大騒ぎでもしているのだろうか。でも、きっと僕のこの小さな幸せの方が楽しいんだろうなぁ。日が明ければ、僕も誕生日なのだ。金正日と一日違いって云うのも何だかなぁ。

それにしても、目黒のはずれには何でこんなに美味い寿司屋が点在しているのだろう。
油面の交差点からさらに奥に入った所にある『寿司 いずみ』はその中でも極めつけの寿司屋だ。こんなに行きにくい場所にある寿司屋も凄いが、その味と江戸前のしごとには恐れ入るばかりなのだ。こればっかりは是非自分で味わってみて欲しいけれど、赤酢、白酢、柚子酢で〆た三種の小肌は絶品なのだ。あぁ、書きながら食べたくなってしまった。近々、行くとしようかな。
by cafegent | 2007-02-20 19:17 | 食べる