東京だからこそ出会う人や店をつれづれなるままに紹介


by cafegent

2012年 02月 29日 ( 1 )

4年に一度のうるう年を迎えた二月最後の日、東京の街は真っ白な雪に包まれた。
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吐息も白く、冬に逆戻りしたかの様だネ。
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咲いたばかりの花たちもさぞ驚いていることだろう。

       水枕ガバリと寒い海がある   西東三鬼

岡山県津山出身の俳人、西東三鬼は肺結核で病床に伏して、毎夜高熱にうなされていた。水枕で熱を下げ、ガバリと眼を覚ます。きっと夢の中で、生死の境を漂う自分を呑み込んでしまいそうな冷たく暗い冬の海から、這い出た己の生きる力を「ガバリ」の言葉に込めたのだろうか。

今朝、窓を開けた途端に顔にあたる雪の冷たさに、この句が浮かんだ。この人、本業は歯医者さんなのだが、かなり良い句を残している。俳号の三鬼は、ちょっと怖そうな雰囲気だが実は英語のThank Youをもじっているのだとか。

      恐るべき君らの乳房夏来(きた)る

どうですか、なかなか洒落たセンスの俳人でしょ。

今朝も仕事場に行く途中で近所の公園に立ち寄ってみた。
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こんな大雪の中でもジョギングをしている人もいるのだネ。
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真白い雪の上を気持ち良さそうに駆け回る犬の姿もあった。

カワセミやルリビタキなどが餌を探しにくる池も今日は枝の雪がドサリと落ちる音しか聴こえない。
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野鳥たちも寒さに震えてじっと耐え忍んでいるのだろうか。

仕事場に戻ろうと来た道を歩いていると雪が積もっている草木の間に四十雀(シジュウカラ)の姿を見つけた。
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そっと近寄ってシャッターを切っていたら、ザワワと羽を広げて飛び出して行ってしまった。
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しんしんと雪が降る公園も案外楽しいのだナ。
     ◇         ◇         ◇
閑話休題。
夕べは仕事場から真っ直ぐ山手線に乗り、神田駅を目指した。

JR神田駅の南口を出て鍛冶町へと進む。二本目の薬屋の角を曲がると路地裏に可成り古くから続く居酒屋が在る。
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今でこそ、「神田ミートセンター」などの新興居酒屋などが軒を連ねる様になっているが、昔は本当にひっそりとした路地だった。

午後六時半、居酒屋『六文銭』の暖簾を潜る。
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この店は長野県上田市の農家の納屋をそっくりそのまま移築しており、その佇まいは実に落ち着いて酒を愉しむことが出来る。
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二階へ上がると、其処はまるで鬼平犯科帳の世界でアル。

一階はヿ(コト)型のカウンターと小さな卓が一つ。
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この日は、二階が地元消防隊の方達の酒宴とカップルさん。一階も二席残して埋まっていた。
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店名が表す通り、此処の酒は信州の地酒山三酒蔵の「真田六文銭」の純米大吟醸だ。いつもの通りぬる燗を戴いた。

数年前に我が酒朋Qちゃんをお連れしたのだが、彼女は長野出身と云うこともあり、すっかり此処の長野県人会酒宴に参加する程通うようになっていた。そのQちゃんからもうすぐ『六文銭』が店を畳むかもしれない、と聞いたのは昨年の暮れのこと。

そして、今日二月29日が最後の営業となってしまったのだネ。
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そんな訳で、夕べは何をさておいても此処で吞むことに決めていた。
最後の日は、長年のご常連や地元の方々の予約で埋まっていることだろうし、昨日ならゆっくりとお話をしながら吞めると踏んだからだ。
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此処のお猪口も徳利も実に風情あるのだナ。
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燗付け器に浸けた徳利は燗酒用の温度計でしっかりとぬる燗、熱燗を計って出されるのだ。お猪口だって仄かに温まっている。ご主人と女将さんの温もりをそのまま吞むって感じだナ。

一本目の徳利が空いた頃、酒朋ビリー隊長が現れた。
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先ず乾杯!そしてご主人と女将さんにもこれまでの感謝を込めて乾杯。

名物のしいたけ変わり揚げも熱々で美味い。
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二階から降りて来たカップルは浅草で酒場を営んでいるそうだ。裏浅草の居酒屋『ぬる燗』のご主人近藤さんに聞いて来たと云う。

彼等が帰った後、また一人お客さんが入って来た。彼もまた『ぬる燗』で聞いて来たそうだ。
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女将さんに聞けば、ぬる燗のご店主さん達は良く来店してくれているとのことだった。
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六文銭のご主人も今は酒が呑めないが一度ぬる燗にお邪魔したと楽しそうに語ってくれた。

吉田類さんは、先日ふらりとやって来たそうだ。だが、まだ早い時間で仕込みが間に合わずビールだけで勘弁して戴いた、と申し訳なさそうに言っていたナ。
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ご主人の体調が余り良くないらしく、苦渋の決断で店を閉めることに決めたそうだ。この酒場の創業は、昭和26年と古い。かつて、先代が営んでいた頃、ご主人は常連客の一人だった。

先代が此処を辞めようと考えていると知り、脱サラをして『六文銭』を譲り受けた。それから実に五十年、今日まで続けて来たのだネ。
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此の美味しい酒の肴ももう食べられないのかと思うと感慨深い。
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時代の陰影を長く刻んできた壁の時計もお役御免。お疲れさまだ。
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いか飯も酒が進む。
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酒呑みに打ってつけの味付けなのだナ。

煙草を辞めて12年が過ぎた。
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この魚の柄の灰皿も今は使わないが、好きなのだナ。

四本目のぬる燗と共に自慢の手作りさつま揚げが出てきた。
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丁寧に魚をすり潰し形を整えて揚げる。ふわふわの食感は、一度食べたら忘れない程に美味い。
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この樽の椅子にも随分と世話になったナ。ご苦労様。

   ♪七つ長野の善光寺、八つ谷中の奥寺で竹の柱に萱の屋根、
       手鍋下げてもわしゃ、いとやせぬ。
    信州信濃の新そばよりも、あたしゃあんたのそばがいい♪

寅さんじゃ無いが、そんな台詞を思い出した。

ご主人、女将さん、永い間お疲れさまでした。
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残すところ今日一日。明日からは、日々ノンビリと過ごせることを願っております。本当に美味い酒と肴には、世話になりました。感謝多謝!
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ありがとうございました。

そして、僕らは神保町の老舗『兵六』の暖簾を潜った。
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こちらも60年以上続く古典酒場だが、三代目が頑張っており、今も変わらない。
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キクさんもやって来て、さつま無双の徳利が三つ勢揃い。
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なんだか、酒場のおまじないの様だナ。

大好きな酒場の灯りが消えるのは残念だが、仕方無いことだネ。
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夕べはさつま無双の燗酒が五臓六腑に滲み渡った。
by cafegent | 2012-02-29 14:23 | 飲み歩き